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第25話
陽茜side
それはキッチンに立っている時だった。突然下腹部をムズムズとした尿意に似た感覚が襲い、あれ?と思った瞬間お尻の穴から何か液体が溢れた。
ビシャッビシャビシャビシャ
訳の分からない事態に一瞬でパニックに陥った俺。頭の中は〝どうしよう〟で埋め尽くされ他の思考が浮かんでこない。
「ウッ!!イタイッッ…」
パニックに陥りキッチンでワタワタしていると次は腹痛に襲われる。今までに感じたことのないほど強烈な痛み。その痛みが脳裏に〝死産〟や〝流産〟と言った不穏な文字を浮き上がらせる。
「…とりあえず…まひとに、でんわ…」
散乱する思考で必死にそれだけ考えるとエプロンのポケットに突っ込んであったスマホを手に取り震える手で眞仁の電話番号を呼び出した。
『陽茜か、どうした?』
しばらくして電話口から聞こえた声にひどく安堵した俺は未だにまとまりを取り戻さない頭のまま言葉を綴る。
「…まひと、どぉしよう、分かんないぃ…」
口から出た声は酷く幼く聞こえたがかえってそれが幸をなしたらしく、何かあったことを察した眞仁が慌てたように言った。
『何があったのかゆっくり説明してごらん。ゆっくりでいい、落ち着いて。』
眞仁も慌てているのにおかしいの、少し笑えた。笑ったことで少しだけ落ち着きを取り戻した俺は言われたように深呼吸をするとゆっくり自分が今どうなっているかを説明した。
している途中でまた不安になってきて泣き出してしまったけどなんとか伝えることができたと思う。
『そうかわかった…』
その後眞仁がなんて言ったか覚えていないけど、とりあえず彩人さんが来てくれることはわかった。眞仁は忙しいからすぐには来れないみたい。
「わかった、なるべく早く帰ってきてね?」
『ああもちろんだ。』
良かった、すぐ帰って来てくれる。俺はここで彩人さんが来るのを待っていればいいんだ。そう思ったら力が抜けた。ビシャビシャに汚れたキッチンの床に座り込み動けなくなってしまう。だけど電話する前よりだいぶ楽になった。眞仁と電話したからか腹痛は下火になり荒れていた呼吸も落ち着いている。
「やっぱり眞仁の力は凄いなぁ。」
そんなことを思いながらぼんやりと座り込んだままでいる。動く気力がないのと動いたらまた痛くなるんじゃないかと怖かった。
「このまま彩人さん待ってよう。」
そう決めてキッチンにある棚に背を預ける。ああ早く眞仁帰ってこないかなぁ…。
陽茜side終
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