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第41話
「そこまでにしなさい、菫 。」
ドアを開けて入ってきたのは知らない男の人。一瞬訳が分からなかったけど
「陽茜 、大丈夫か?」
続いて入ってきた眞仁 の言葉にホッとした。部屋に入ってきたのは眞仁を入れて3人
あとの2人は全く知らない人達だ。
「眞仁、あの2人は?」
俺が床に座り込んでいるそばに寄ってきて寄り添ってくれた眞仁に尋ねる。
「俺の父と兄だ。流石に俺ではもうどうしようもないから助っ人を頼んできた。」
そう言われて2人を見ると確かにどことなく似た面差し。眞仁がもっと歳を経たらこうなるんじゃないかなという感じだ。
その眞仁のお父さんとお兄さんは今、お母さんと婚約者と向き合って座り2人を説き伏せてくれている。
「菫?今回のことは流石に私も目を瞑ってあげられないよ。君の私利私欲のために息子の幸せを取り上げるのかい?」
「私は私利私欲なんて…これは一条家のための政略結婚なんです。」
「一条は今そんなにお金に困っていない。私も優仁 もあの病院で働いているんだし政略結婚なんて必要ないよ。それに後継だって優仁 の息子がいる。どこにも眞仁が彼女と結婚しなくてはならない理由が見当たらないな。」
「でも、彼はΩ です。眞仁にふさわ…」
「僕の大切な人はΩだよ、母さん。僕の時は反対なんて一切してこなかったよね?咲良 と彼、陽茜さんの何が違うんだい?」
「それは家柄が…」
「別に眞仁は家柄や権力、ましてや財産と結婚したい訳じゃないだろう?それに僕らの中でお金に困っているのは浪費癖のある貴女だけだ。僕も父さんも眞仁もきちんと自分が稼いだお金の中でやりくりしている。西園寺家と政略結婚する必要は一切ないんだよ。」
きっとすごく頭が良いんだろうな。優仁さんだっけ、眞仁のお兄さん。理知的な、でも嫌味に聞こえない、聞いてて安心するような頼もしい声音。お父さんの方も頭良さそうだな。道理で眞仁に口では勝てないわけだ。
そんな事を考えていると、お父さんがこちらに向き直った。俺は慌てて崩していた足を正す。
「そんなに畏まらなくていいよ。」
そんな俺の様子を見てお父さんは少し笑いながらそういった。優しい眼差し、微笑んでいる口元。人に安心感を与えてくれる。こんな人がお父さんだったらどんなに良かっただろうか。
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プチ人物紹介
一条咲良子
旧姓:西園寺咲良子
優仁のお嫁さんで、百合香のお姉さん。
Ωで優仁の運命の番 、気配りのできる優しい奥さん。もちろん料理上手。
華奢な体つきからは想像つかないが3児の母。
優仁の呼ぶ「さくら」は付き合ってた頃からの愛称。
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