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第42話
「陽茜君、先ほどの話を聞いていたよ。眞仁のために、眞仁をこんなにも愛してくれてありがとう。」
そう言うと眞仁のお父さんは深く深く頭を下げた。反対されはしてもお礼を言われるとは思っていなかったから驚いてしまう。
「そんな、顔を上げてくださいっ。俺、菫さん達の言うように本当は眞仁に釣り合う人間じゃないんです。きっかけもきっかけだし…いつも心配や苦労を掛けてばかりです。」
自分で言ってて俯いてしまう。本当に俺は自分に自信が無い。
「陽茜君、そんなに自分を否定してはいけないよ。それは君を大切に思っている眞仁を否定するのに等しい。君は眞仁の心を疑うかい?」
「そんなことッッ!」
「そうだろう?君は眞仁を変えた。君への想いが他人に興味を示さず、特定の相手を持たなかった眞仁の心を変えたんだ。君自身が嫌う君の事を眞仁は愛しているらしい。だから嫌いはしても否定はしないでくれないか?それでは親としてあまりにも眞仁が可哀想だ。」
言われて気づく。俺自身を否定したらそれは俺に向けてくれる眞仁の思いを、
延いては眞仁自身を否定することになる。それはいつも余る程の愛情を向けてくれる眞仁が不憫だ。
「お父さんは俺と眞仁の事を反対しないんですか?」
「不思議な事を聞くね。私は眞仁ではないよ、それに眞仁は私のものでもない。眞仁が考え、行動している事を否定したり反対する権利は私にはないんだよ。それに眞仁は庇護下にいる子供でも無い。自分でお金を稼ぎ、自分で生きていける立派な大人だ。その眞仁が決めたことなら私は祝福するよ。」
あまりにも暖かい言葉、声、眼差しに視界がぼやける。いつか引き離される事に怯え少しでも未練が残らないようにと過ごしてきたから。
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