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My secondary planets 〜宵の明星後日談・3

「あれ?こんにちは」  店先に立っていた少女がこちらに気付く。会釈するとともに両脇で結ばれた柔らかな髪が、ふわりと揺れた。 「恭さん!シフト入ってたんだ」 「うん、今ビラ配り終わったとこ。慈玄さんも、いらっしゃいませ」  カフェ「sweet smack」の制服……薄茶に白のストライプシャツと、黒いリボンタイ……に身を包んだツインテールの少女とは、慈玄も顔見知りだ。もう一人、慈海とは初対面のため、軽く互いに辞儀をする。 「よぉ、恭ちゃん。相変わらず可愛いねぇ」 「慈玄さんも素敵ですよ。和君、そちらは?」  一瞬慈玄に呆れた視線を送ってから、和宏は慈海を紹介した。 「ん、と、慈玄の知り合いで、慈海さん」 「恭君、か。はじめまして、慈玄とは……同僚、とでも言えば判りやすいか」  和宏のアルバイト仲間である恭は、学校では彼の一つ上、つまり先輩にあたる。その上自宅が宮城家の近所、という間柄だった。そう説明すると、慈海は「なるほど」と顎髭を撫でて頷いた。  和宏に誘われて、慈玄もカフェには客として数度訪れている。彼女とはそこで会い、会話も交わしていた。「sweet smack」は寛容な職場で、繁忙時でない時間帯ならば知り合いが来ると、多少長話をしていても咎められることはない。 「で。恭ちゃん、その後彼氏とは上手くやってるか?」 「彼氏?あ、はい。仲良くしてますよ?」  そして恭には、今どき珍しいことに親の決めた許嫁がいる。すでに同居しているという念の入れようだが、彼女が歳よりも精神的に幼いらしく、これも今どき珍しくいまだ清い関係だという。雑談の折慈玄も耳にしたのだが、少々時代錯誤に思え、面白かったので覚えていた。 「慈玄、恭さんのこと気になるの?」 「違うよ和君。慈玄さん、この間相談に乗ってくれたの。すごく優しいんだから」 「……へぇ……」  和宏が向けた猜疑の目にも怯まず、慈玄は胸を張った。 「そういうこった」 「それはまた、頼りない相談相手だな」 「えっ?!」  やれやれと溜息を吐きながら突っ込んだ慈海に、慈玄は目を剥く。 「ほんとだ。恭さん、相談だったら慈海さんの方がいいよ。俺もすっげー頼りにしてるんだ」 「そうなの?」 「さてな、私は男女の機微はよく分からん。そういう手管ならば、こやつの方が詳しかろう」 「人を色事しか頭にない奴みたく言うなよ!」  喚く慈玄に、平然と受け流す慈海。それを見て苦笑する和宏。 「仲、いいんですね」  ふふ、と含み笑いして、恭が呟く。 「仲が良い、か」 「えぇ、楽しそうで」 「俺はもうこのやりとりが普通だったけど、確かに、仲良いかも」  和宏も嬉しげに応える。 「あ、じゃあ俺、ケーキ買ってくる!二人も選ぶ?」 「いや、俺等はここで待ってんよ。鞍と今顔合わせんのもなんかな」  和宏が休んでいるなら、おそらく鞍吉は勤務中だ。深い意味はなかったが、なにやらもめ事もあったらしいと知っている慈玄は、ここで鉢合わせるのに気が引けた。 「鞍君なら厨房にいますけど。呼んできましょうか?」  元々鞍吉が住んでた寺の住職だと和宏が慈玄を紹介したので、彼と鞍吉が既知なのは恭も把握している。 「あぁいや、大丈夫だ。行ってこいよ、和」 「そうですか。それじゃどうぞ、和君」 「ん、二人共、ちょっと待ってて!」  カラン、とドア上部のベルを鳴らし、和宏が店内へ入っていった。 「鞍吉君もここにおるのか」 「まぁな。お前さんのことなど覚えてねぇだろうが」 「下手に刺激を与えるのは避けた、か」  確かに、その目論見もあった。他にも、あと一つ。 「ここには、他にも妖がいるな?」 「気付いたか。さすがだね」  同じ仕事場に妖が潜んでいるなど、和宏は知らない。今彼にそれを教えるのは得策ではないと、慈玄は踏んだのだ。 「俺もまだろくに面と向かったこたぁねぇが、そこそこ能力の高ぇ奴だな。ご丁寧にやたら出来の良い式を従えてやがる」 「ほう?」  ガラス越しに和宏と恭の後ろ姿を眺めながら、慈玄が言葉を続けた。 「つっても、稲城と同じで人間と同化して暮らしてるだけみてぇだぜ?ちっとばかし怪しいとこはあるが、害をもたらすような類には見えねぇ。それに」  姉弟のように並んだ可愛らしい二人に対峙している、男性店員の顔が垣間見えた。 「式の方が、な。どうも主従というよりは、自分の感情で動いてるらしい。ありゃあもう、人間に近ぇ代物だろう」  再びベルの音がして、和宏が飛び出して来た。 「適当に買ってきたよ!あとスーパーに寄ったら帰って飯にしよ」 「おう、ありがとさん!んじゃ、行くか」  天狗二人は、静かに待っていたかのように口を閉じる。 「ありがとうございました!」  見送りに出た恭にそれぞれ手を振り頭を下げ、三人はまた横並びになってカフェを立ち去った。

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