1 / 14

第1話 都筑

 小さい頃から、肇(はじめ)はずっと俺のヒーローだった。 肇と手を繋げば暗くても眠れたし、大きい犬に吠えられて尻餅ついた時も、俺の言動がおかしいって周りの奴らにからかわれた時も、いつもいつも肇が助けてくれたんだ。 俺の双子の兄、肇。  その度に伝えてきた、「肇ありがとう」と「肇大好き」決まって肇の答えは 「双子とはいえ僕はお兄ちゃんだからね。都筑(つづく)を守ってあげる」  俺が弟だから、双子だから助けてくれるの?それって義務?  小さい頃は、その言葉がとてつもなく嬉しくて、「お兄ちゃんだからね」って言われるたび、何も返ぜずにニコニコ笑う自分がいたけど。  少し成長して、物心ついてきた時、弟じゃなかったら。双子じゃなかったら。肇は助けてくれないの?こんなどんくさい俺なんか見向きもしなかったんじゃないの?そんな考えが、ふとよぎってしまったんだ。  一度考えてしまった事を、なかった事にするって出来ないよね。考えすぎて枕を濡らした夜もあった。そんな泣いてる日に限って、肇は気づいて隣の部屋からやってくる。 「都筑どうしたの?」 「眠れないの?」 「都筑が眠るまで隣にいるから大丈夫だよ」  なんでそんなに優しいの?あんまり優しくすると、俺肇がいないと生きられなくなるよ。肇の事で泣いてたはずなのに、安心してしまう撫でてくれる肇の手。安心する自分に似た匂い。慣れ親しんだ温もり。いつの間にか夢の中へ。でも朝起きると肇は自室に戻ってていなくて悲しくなる。  いつから部屋別々になったんだっけ…ずっと一緒じゃダメだったの?あれは……小学生の高学年、肇が言い出したんだ………… 「お母さん、都筑が暗くても眠れるようになったから、1人部屋になりたい」 ちょうど親も、二人が大きくなってきて、そろそろ部屋をわけてあげようって思ってたって。なんで大きくなってきたら別々にならなきゃいけないの?なんで肇はそんな事言い出したんだろう。俺と肇は元々は1つだったんだよね?1つのままで産まれてたなら、ずっと一緒にいられたのに。  どんどん部屋を分ける話を母親と肇で進めてる。俺はぼんやりそのやり取りを見てるだけ。都筑はまたぼんやりして~なんて母親は笑ってるけど、ちゃんと聞こえてるよ。声が出ない、聞きたい事は溢れてくるのに、何から聞いたらいいか分からないまま話が進んじゃう。  やだよ。肇がいない部屋なんて。 「肇と別の部屋ヤダ…」 「都筑、別っていっても隣の部屋だよ。眠れなかったら来て大丈夫だから」 「そうよ、都筑。2人とも大人に近づいてきてるんだから、少しずつ成長しなきゃ」 「肇と別々になるのが大人なの?なら、俺大人になりたくない…」 そう言い残して、2人の声を聞かずに外に出た。

ともだちにシェアしよう!