127 / 180
第十四章 監視⑧
包丁を購入し、福本はさびれた和室でひとり、待った。青年の隙をつき、殺すチャンスを――そしてふと、思い出した。
一度だけ、帰ったと思った少年が青年の家に引き返したことがあった。その日、少年のあとをつけていた福本は焦った。少年は不安そうに周囲をきょろきょろと見渡していたので、あとをつけていたことがばれてしまったのかもしれない、とひやりとした。その日、少年は初めて、青年の家に泊まった。そうだ、また、あんな風に引き返してきたと思わせて――青年が扉を開けたところを、狙う。そう、決めた。
どうせなら九月一日にしてやろう――九月一日は、青年の誕生日だった。誕生日は、誰だってちょっと気が舞い上がっているし、なにより誕生日という、一年で一番大切な日に殺される。青年にとって、何より悲しく、絶望的で、きっと心の底から福本を恨みたくなるだろう――死に際、青年の悔しそうな表情を想像するだけで、ぞくぞくと興奮した。
しかし、その前日の八月三十一日――何故か「ハッピーバースデー!」という声が上から聞こえてきた。どうやら、少年が青年の誕生日祝いをしているらしかった。福本は焦った。もしかしたら明日ではなく、今日が青年の誕生日なのかもしれない――。急いで準備をし、逸る気持ちを抑えながら、包丁片手に、少年が帰るタイミングを、じっと、待った。
ともだちにシェアしよう!