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第1話

6時45分発 W行き普通列車。 毎朝ため息と共に乗り込む電車。 そこに小さな楽しみを見つけたのはいつだったかーー 12月の冷たい風に追われるように早足で駅まで歩き、支線の始発となるH駅から電車に乗り込む。 この時間は通勤客がほとんどでみんなそれぞれスマホを見たり新聞を読んだりして出発を待っている。 佐藤も空いている席に座るとスマホを取り出した。 夜の間にフォルダに溜まったメールに目を通し、大学時代の友人からのメールに瞠目する。 そうか、そろそろそういう時期なのか。 サークルの仲間から結婚の報告が来ていた。 大学を出て4年。 そろそろ仕事にも慣れ私生活に余裕が出てきた頃。 20歳の頃から付き合っていた恋人と6年来の想いを実らせ結ばれる幸せが綴ってあった。 祝いの言葉を返しスマホを仕舞ったところで電車が動き出した。 ここから私鉄の本線まで約15分。 わずか4駅しかない支線だがベッドタウンとして開かれた地域だけに利用者は多い。 程なく電車はK駅に到着した。 降りる客はほとんどなく一斉に乗り込んでくる群れの中に彼を見つけた。 緑のブレザーに濃紺のマフラーを巻き、眠そうな素振りで吊革を掴む高校生。 通勤客がほとんどのこの電車では制服姿は目を引く。 制服が原因か他の何かか。 なぜか佐藤はその彼から目が離せない。 H線は単線のため、ここK駅で行き違いの待ち合わせがある。 佐藤は、わずか数分動き出す電車を待つ間だけ彼に視線を向けることを自分に許していた。 緑のブレザーはT市にある私立の男子高の制服だ。 ネクタイの色で学年が分かるらしい。 佐藤は徒歩で通える自宅近くの公立高校に通っていたので噂で聞いた知識しかない。 高校生かーー これからどんな未来でも選べるのだろう。 毎朝満員電車に揺られ、会社では下げたくもない頭を下げ、胃の痛む生活が待っているとは知らなかった頃。 知らずに漏れたため息と追憶の欠片をそこに残し電車は走り始めた。

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