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第2話

日々の生活の中で何気ないものが大切だと気づくのは、いつもそれを無くしてから。 誰かの存在が大事だと気づくのも―― 春。 少し埃っぽい風に乗って桜の花びらが舞っている。 4月の人事異動で佐藤は営業所から本社勤務となった。 出勤先が変わって通勤時間が短くなった分、家を出る時間が遅くなり通学の時間帯と重なるようになった。 真新しい制服を着た新入生はキラキラと輝いて見え、佐藤は自分が迷い込んだ異分子の様に感じられ少々居心地が悪い。 30分遅い電車には当然ながら彼の姿はなく、朝のひとときが自分の中でいつの間にか大切な時間になっていたことに気づいた。 ほんの数秒、数分、視線に彼を捕らえることが1日の活力になっていたと。 軽い喪失感は心に少しばかりの風穴を残し、それでも日々の生活は続いていく。 電車に乗る度、いないはずの制服を探す自分に戸惑う。 初々しかった新入生が慣れない電車通学に慣れた頃、佐藤も彼のいない電車に徐々に馴染んでいった。 桜が葉桜に変わり、その緑が深まった頃には気持ちの切り替えも済んでK駅で視線を上げることも少なくなった。 元々同じ電車に乗り合わせただけの交差しない関係。 交わることのなかった視線が答えだろう。 いつも一方通行の視線の先にいた彼。 いつかまた、会えることがあるならば――

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