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第1話

俺の学校には漫画に出てくるような人気者がいる。透き通るような白い肌はきめ細かく、手入れされた綺麗な金髪、前髪は少し長めで左に流れている。誰が見てもイケメン…名前は『綾川遙陽(あやかわはるひ)』常に隣に女の子がいていつも爽やかな笑顔で微笑んでて、それはそれは綺麗な顔の王子様みたいな…… 俺はそんなアイツが嫌いだ。 「ゆうくん、俺とせっくすしない?」 突然現れたその人は俺の目の前で仁王立ちすると、笑顔で俺にそう言った。でも聞いて欲しい相手は"男"だ。そして俺も、男だ。 「……は?」 あまりにも突然の出来事に混乱して、ここまでの出来事を遡る…えっと……今日はなんとなく友達の誘いを断って購買のパンを買って食べようと中庭に………来てみたらこれだ。こんなことなら友達と昼飯食べればよかった。 「なぁ、聞いてる?俺の話」 いや、そんな不思議そうな顔されてもこの反応が一般的だと思います。なんで俺は誘惑されてるんですか、誰か教えてくれ頼む。 「あぁ!自己紹介か!俺は」 「綾川遙陽先輩、ですよね知ってます」 「ありゃ、知ってたか」 「知らない奴いないだろこの学校に…」 「俺さ、別にそっちに興味あるわけじゃないんだよ。ただ、興味本位で」 「いや、先輩の性癖は知らないですし興味無いんですが、なんで俺?初対面…ですよね?」 頭の中はハテナでいっぱいだった。初対面の男にせっくすに誘われるってどんな状況だよ… 「いや、初対面…ではないはずなんだけど……覚えてないかな?一度廊下ですれ違って目が合ったと思ったんだけど」 「は?それだけ?」 「君さ、俺が先輩なの忘れてない?」 「え」 「朔間佑斗、今日の放課後校舎裏。先輩命令」 「な、え?ちょ……」 「じゃ、彼女待たせてるから後でね〜」 「は?!」 彼女持ちの男に(以下略) 確かに先輩だけど校舎裏って…俺ボコられんの?いやいや、掘られるの???どっちにしても行くメリットが見当たらない…よし、聞かなかったことにしよう。そう思って俺は何事も無かったかのように午後の授業を受けた。 放課後、教室にいた友達に別れを告げて下駄箱に向かうと女の子と歩く遙陽先輩を見かけた。 (ほら、やっぱりからかわれてただけじゃん。行かなくて正解だったな〜、先輩こえぇ) そんな事を考えながら下駄箱から外靴を出し歩き出すと後ろから叫び声。何かと思って振り向くと勢いよく誰かが飛びついてきた。 「ゆーーーーーーーーーーくんっ!!!」 「うわぁ!ちょっ!?遙陽先輩!?」 「約束したのに帰る気?殺すよ?」 「え、メンヘr」 「うそうそ、俺も帰るから一緒に帰ろ」 「え?だって彼女さん…」 「ん?あぁ、大丈夫!先約あるって言ってあるから!先歩いてて?カバン取ってくる!大丈夫走って追いかけるからぁ!」 「大丈夫?えっ、ちょ…行くのはや……」 (いや先約って…帰ろ…) 俺はまた歩き出す。校門を出てしばらくすると後ろから走る音が聞こえてきた。予想は着くので無視して歩いていると後ろから肩を組まれた。 「お待たせ〜!ゆうくん歩くの遅いね」 「そんな事言われる筋合いありませんけど」 「それで…どう?考えてくれた?」 「…何の話ですか?」 嫌な予感がしたのですぐさまはぐらかし、歩くペースを早めた。早く帰りたい帰りたい帰りたい 「だから…俺と。しよ?」 急に横から俺の顔を覗き込みあの爽やかな笑顔ではなく、少しあざとい困り顔で初めて見るその表情に一瞬ドキッとした。悔しいけど顔はイケメンなんだよな…くそっ…… 「……本気ですか?」 「うん、詳しいことは俺ん家で話す!ね!」 「いや無理ですよ俺女が好きですもん」 「うん、俺も!」 「????」 「ゆうくん彼女いないよね?」 「聞き方失礼じゃないっすか?いないけど」 「じゃあ問題なし。いくよ〜」 全然意味わからないけど押しに弱い俺は断りきれず先輩の家へ着いてきてしまった… 家に着くなり先輩の部屋へ案内され少し待つように言われた。暗めの茶色と白の家具で統一された部屋。正直綺麗な部屋だし何かわからないけど凄くいい匂いがした…ってここ男の部屋なんだよ…なんだよいい匂いって…… しばらくして先輩が戻ってきた。少し困惑してるような、不安そうな顔で。部屋に入るなりこっちに体を向けてストンと隣に座った。正直もの凄く気まずい。 「…先輩?」 「これであってるのかわからないけど一応準備してきたから…始めよっか!」 「始める…なにを?」 「せっくす♡」 「まじで勘弁してください。俺まだ童貞なのにケツの処女が先になくなるとか今後どうやって生きていけばいいんすか」 本気でぶつかれば分かってもらえるはずだと思い正直に言った。童貞であると…。そもそも俺は先輩の事何も知らないしなんで俺なのか…分からないことだらけで頭の中は大混乱していた。 「……あ、そっか。ごめんごめん色々説明してなかったね!とりあえずゆうくんはネコじゃないから安心して?」 「安心できるとお思いで?てかネコってなに」 「ふふ、ゆうくん面白いね。益々気に入った!とりあえず説明聞いて?帰らないで?」 「……ぅわっ!」 逃げしようと立ち上がる俺の服の袖を割と強めに引っ張る先輩。気が付けばそのままベッドに組み敷かれる形になった。 「俺彼女いるんだ。知ってるよね?」 「は、はぁ…てか、どいt」 「彼女可愛いんだけど、正直好きで付き合ったわけじゃないからそんなに愛情がないわけ。どちらかと言うと告られた時の同情で付き合ってる。」 「最低ですね」 「そう、俺最低なんだ。まぁ聞いてよ。それで、俺普通に女の子とやるんだけど…なんか違うなって…飽きたのかも?だから、ちょっと試してみようかなって」 「せっくすが…飽きる…?」 「あ、違う違う。せっくすは好き。気持ちいいし…でも攻めることに飽きたなーって」 なんだその贅沢な理由。もう何が何だかわからない。とにかくこの先を聞くのが怖くなってきて先輩と目を合わせないように横を向いて無言になる。先輩は俺を組み敷いたままふふっと声を漏らし笑った。 「……それで?って聞かないの?」 「…そ、それで…?」 「ふふ、それでね?開通させようと思って。後ろの穴」 「んな簡単な話じゃねーだろうがっ!」 なんなんだこの人!え、あのイケメンだって女子に騒がれてる綾川遙陽はこんなやつなのか!?最低で変態…なんで俺巻き込まれてるの……もう泣きそう… 「あ、ちなみにネコは俺、ゆうくんはタチだからね!」 「それはなに!?もう全てが理解できない!!」 「もう、察してよ〜。だから、ゆうくんが俺に挿れるの。」 「なにを」 「ナニを♡」 俺は組み敷かれたまま両手で顔を覆い深くため息をついた。日本語難しい、理解できない。イケメンのケツに俺が挿れる意味がわからない…… 「でもそっか…」 俺を見下ろす先輩は何か考えるように声を漏らした。そして、俺の手に手を重ねそっとその手を上へずらした。 「…な、なんすか?」 「はる、でいいよ?あと、俺が途中までリードしてあげるね、童貞くん♡」 「えっ……!?」 気がつけば唇に柔らかい感触。俺はどうやらこの人にキスされてるらしい…人生で初めてのキス……柔らかい…こんな感じなんだ… 「あれ、嫌がらないんだね?」 「へ?ぁ、いや」 「もうお遅いよ」 余りにも予想外の展開に思考が追いつかない。唇に触れる柔らかい感触が先輩の唇だと認識するのに時間がかかった。でも、認識してからも先輩が何度も食むように唇を重ねるからどんどん意識が朦朧としてくる。男の唇ってこんなに柔らかくて甘いのか… 「……っ、ん」 「ゆうくん、口開けて」 「んぁっ…はぁ…ぁ……」 あれ、どうやって息するんだ…どんどん苦しくなってきて視界が歪み始めると、先輩は俺の頬に手を添えてキスをしながら口の中にスルッと親指を突っ込み、そのまま何かを滑り込ませる。生暖かいその感触が気持ちよくて力が抜ける。何度も何度も俺の唾液ごと絡めるように動くそれが舌だとわかってもやめられない… 「…っん、上手だね。ゆうくん」 「んぁ…っ先輩……やめ」 「先輩じゃなくて、はる でしょ?」 「や……だっ…」 「ん〜、じゃあ名前呼んでくれたら今日はやめてあげる。それでどうかな」 「は…舐めんな。はr…んっやめろって」 俺が名前を呼ぼうとする度阻むように何度もキスをする先輩にイライラしてきた。一度思いっきり舌を先輩口の奥までねじ込み主導権を握るようにやり返す。体勢も先輩の手首を掴んで軽い体をくるっと横にすると軽々と組み敷く形になった。 「っ……んっ!?」 「…はる……俺、やられっぱなしは嫌いなんすよね。」 「うわ…どうしよう……一瞬キュンとした」 「え」 「俺、ゆうくんの顔好きなんだよね。あと、キス気持ちよかった。ゆうくん上手だね」 俺を見上げたまま先輩は上半身を起こして触れるだけのキスをした。え、なんで俺は今ドキドキしてるんだ…? 「ふふ、今日は出来そうにないけど、次は絶対挿れさせるから。ゆうくん、俺のこと好きになってくれたらいいのに」 「な、なりませんよ!たしかに先輩は可愛い顔してるけど…俺は女が好きだし!」 「佑斗…はるって呼べって言ったよね?」 「!?」 そう言い放って俺の胸元をグッと押し返すと胸ぐらを掴んでまた引き寄せられた。急に距離を詰められて思い出す。そうだ、か弱い女の子じゃない。相手は男だ。 (いや…え、さっきまでの可愛くてエロい先輩どこいった?) いつの間にかそんな考えが頭をよぎる。急に呼び捨てにされて胸の当たりを鷲掴みにされたような感覚に陥った。物理的にも掴まれてるけど…、先輩の表情はさっきまでと違い鋭い目付きで俺をじっと見つめた。 「は…はる……」 「次、先輩って呼んだらその場でキスしてやるよ。好きだよね?キス」 不敵な笑みで自らの唇に指を添えた先輩はあざとくて、今にも噛みつきたくなる。何度相手は男だと思っても、先輩の魅力に引き寄せられてる自分を抑えられなかった。 「外では…困ります……」 「じゃあちゃんと はる って呼んで。」 「……そ、そもそもなんで俺なんすか」 「ん〜?」 そうだ、俺はまだ聞いてない。流されて忘れかけてた。俺を選んだ理由はなんなんだこんな頼み事他のやつでもいいだろ。先輩は少し考え込み胸元から手を離すとベッドの上に座り直した。 「理由はまぁ…色々あるけど……一言で言うならゆうくんになら掘られてもいいかなって思ったから。顔も良くて、体つきも程よく筋肉あるし、あとね、いい匂いがする。」 「先輩そんなに俺の事好きなんですか?」 「な、え?!違うよ!?俺は別にゆうくんが好きとかそんなんじゃなくて…」 冗談で言ったのに耳まで赤くして慌てる先輩にこっちまで照れた。あぁ、どうしよう…かわいい顔すんなよ… 「はる、本当にどこで俺のこと知ったの?」 自分の胸のざわつきを抑えるように言葉を絞り出す。先輩は小さく咳払いしてまた元のイケメンに戻った。 「廊下ですれ違ったって話はしたよね?あの時凄くいい匂いがして、気になったんだ。」 「それだけ?」 「なんだよ、急に詰めてくるのやめて」 「だってそれだけで俺の名前まで…」 「はぁ…別に女の子とやるのが嫌いとかじゃないんだけど、ヤってる時ふいにゆうくんの顔思い出すことがあって、気がついたら目で追ってたの。で、人づてに名前聞いたりして、今日口説いた」 「え、くど…え?」 「口説いたつもりだけど?」 俺を選んだ理由にも驚いたけど、致してる最中に俺を思い出すってどういう事…それに口説かれてたの俺。 「はる…彼女いるのに最低っすね」 「ゆうくんが付き合ってくれるなら別れる」 「え、まじで最低じゃないっすか。引くわ」 「じゃあゆうくん以外の人にお願いする…」 「は?誰でもいいの?」 「どうかな」 「なんかそれはムカつくんだけど。」 「最初に言ったじゃん。彼女には愛情ないって。今俺が可愛いと思ってるのはゆうくんだけだよ?」 「それは絶対嘘じゃん。チャラいやつ嫌いです」 「えぇ〜どうしたら信じてくれるかな〜」 ヘラヘラ笑いながらそんなこと言うからこっちも意地になる。隣に座る先輩の後頭部に手を回して、無理やりキスをした。もうどうにでもなればいい。でも、他のやつにフラフラついてくのはなんかムカつく。互いの唇が一瞬触れて離れると先輩は驚いているのか固まっていた。鼻と鼻が付くほど近づき言い放つ。 「俺、チャラいやつは嫌いなんすよ。意味わかる?」 「へ…?」 「俺がいいならフラフラすんなよ、はる。」 「ぁ…はい///」 先輩は両手で顔を隠して声にならない声を出していた。それを見て俺も自分の言動に青ざめる。あれ、こんなはずじゃなかったのに… 俺の初体験ってもしかして男になるんじゃ… 今後の事はわからないけどとりあえず… "学校一イケメンの先輩は 俺の前ではあざとくて可愛い"

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