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第2話
ーーー先輩とあんな事があってから数日が経った。
あの後も何度か廊下ですれ違ったりする割に、話すどころか目が合うこともない。別にそれが嫌とかじゃないけどあれは一体なんだったのか…それのせいかずっともやもやしたまま過ごしていると、同じクラスの女子から部活の助っ人を頼まれた。
「おつかれっしたぁ〜。」
帰宅部だし身長が高いせいもあってたまに呼ばれる男子バレー部の助っ人。次の試合まで1週間だけ練習に参加することになった。部室で着替えて帰ろうと下駄箱に向かうと男女が楽しげに話してる。行き交う生徒たちの声を聞き流しながらふと考えた。
「先輩も今頃彼女といんのかな…」
ボソッと呟くと不意に後ろから覆い被さるようにして目の前の下駄箱に手がついた。これが言わゆる壁ドン…あ、いや……下駄箱ドン?
「ゆーうくん。今先輩って言ったの聞こえたよ?」
「!?」
まさかとは思ったけど振り向くとそこには先輩がニコニコしながら立っていた。壁ドンしてきたのは先輩か…まぁ、こんなことするのは先輩くらいだよな…なんて冷静に考えるも、なんとなく気まずくて先輩から目を逸らした。
「いつも突然現れますね…」
「ゆうくんのこと待ってたんだよ?」
「彼女といただけだろ」
「なんだ、知ってんじゃん。それより…」
先輩は目を逸らした俺に合わせるように角度を変えて近づく。その後の展開が読めてるにもかかわらずそのまま俯くとすくい上げるようにキスをしてきた。
「っ……んっ」
「先輩じゃないでしょ…?」
「…はる、彼女は?」
「もう…いい雰囲気になると思ったのにぃ~…先に帰ったよ。一緒に帰ろ?」
「…うん」
本当にずるい。嫌がりたくても先輩のあざとさに勝てる気がしない…普段は見せない表情に弄ばれてる。そんなに俺にちょっかい出すなら女と別れろよ……
「ん?」
「なんも言ってねぇよ。」
「え、ゆうくんなんで怒ってんの」
「怒ってません」
帰り道、学校の近くで一人暮らしをする先輩の家まで送る。というか、半ば強引に送るように言われた。携帯をいじりながら歩く先輩の横顔を見てるとなんだか無性に腹が立つ。
「ゆうくん俺の顔好きだよね」
「は?自惚れんな」
「わかるわかる。俺もゆうくんの顔好き」
「…聞いてないです」
「あとね、唇も好きだよ?」
そういって首をかしげて笑う先輩。悔しい…ちょっとでも可愛いと思ってしまった自分にイライラしてため息が出た。そんなずるい顔、彼女にもすんのかよ…
「……家、着きましたよ。じゃ」
「え?上がってかないの?」
「帰ります。部活で疲れたし」
「そっか。うん…そうだね、ありがと。気をつけて」
あっさり引き下がり部屋の中に入っていく先輩を見送った。なんでちょっと落ち込んでんだ俺。疲れてるんだし別に家に行く必要も無いし!そんな言い訳を繰り返しながら家まで帰った。
その後1週間は部活で忙しくて先輩の事を考える余裕もなかった……って言うと嘘になるけど、練習してる間は忘れられるから柄にもなく頑張った。試合もそこまで活躍できた訳では無いけどそれなりに結果を残せたと思う。バレー部員達と顧問からはお礼だと言って学食のタダ券を貰った。その日の帰り、初めて女子マネージャーに呼び出された。
「朔間くん…試合、ありがとね!」
「あ、いえ。どうせ暇だったんで」
体育館裏にで話すことになりついていくと、マネージャーは少し小さめな声で話始めた。
「バレー部、本当に入る気ないの?」
「ん〜そうですね…楽しかったけど、すいません。」
「そっか…」
初めての展開に少しドキドキする。チラッとマネージャーを見ると黒いセミロングが風に揺れて片耳に髪をかける仕草。可愛い…ほんのり肌がピンク色で女の子って感じがする。で、俺は帰っていいのかな…?沈黙が辛い。
「……あ、あのね!」
「はい」
「私、朔間くんのこと好きなの!」
「はい。……え!?」
何の脈略もなく言われた言葉に動揺した。本当にこんな事があるのかと勢いよく周りをキョロキョロ見て確認する。隠しカメラとかその類のものはないようだ。
「え、俺?」
「うん…だから、あの…」
ゴクリと生唾を飲んでその瞬間を期待した。これは初彼女のフラグなんじゃ…?これで先輩に振り回されずにすむ…はず。でも、不思議と冷静で期待してるはずなのにドキドキもワクワクもしなかった。そして、目の前の可愛らしい女の子が薄ら口を開いた瞬間…
ーーーふんわりと後ろから抱きつかれた…この感覚、漂う香りには覚えがあった。
「あー、ごめんね。こいつ、俺のだから手出さないで」
耳元で聴こえる甘ったるい声に体が熱くなる。この人は本当に…いつも突然現れる。先輩だと人した瞬間から心臓の音が耳に響いてうるさかった。
「はる…なんでいんの」
「ゆうくんが遅いから迎えに来たんだけど…、なんか面白いことになってるからちょっとそこで見てた」
「は?ストーカーめ…」
俺に抱きついたままクスクス笑うから耳元が擽ったい。慌てて離れるとマネージャーは状況が理解出来てないのか突っ立ったまま動かなかった。
「あの、ごめん!気持ちは嬉しいんだけど…」
「あ〜…うん。綾川先輩と…その、付き合っ」
「付き合ってないよ!?コイツが勝手に絡んできてるだけだから!!!誤解しないで!?」
「そ、そっか…うん。わかった!引き止めてごめんね!聞いてくれてありがとう!!」
そう言ってマネージャーは俺たちの前から去っていった。そして、一呼吸おいて後ろを見ると少し拗ねた様子の先輩。
「あの言い方は酷くない?」
「間違ってないだろ」
「だぁってキスした仲じゃん!」
「あれは、はるが勝手に」
「へぇ〜…せっかく1週間邪魔せずに待ってたのに。ゆうくん冷たい、帰ろ~。」
(あぁ、だから最近大人しかったのか…)
頬を膨らませて俺の前を歩く先輩に向かってため息混じりに少し嫌味を言った。
「なぁ、彼女いるんだよな?俺じゃなくて彼女と入ればいいだろ」
「ゆうくんもしかして…嫉妬?」
「チッ…うるせぇ。帰る」
嬉しそうに笑いやがって…あぁ、腹立つ…自分でもちょっと自覚してるから余計に腹が立つ。でも待てよ?そもそもあのタイミングで割り込んできたってことは、はるも嫉妬してたってことじゃ…
先輩の後ろを歩きながら、俯き考え込んでいた顔を上げると、タイミングよくこっちを振り返った。その瞬間陽の光でキラキラ光る柔らかそうな髪が風になびく。ふっと視線を下げて片耳に髪をかける仕草にドキッとした。その瞬間を写真に収めてしまいたくなる程綺麗で、思わず手を伸ばすと先輩と目があった。
「…ん?なに?」
「あ…いや……」
「ゆうくん、今日は家来てくれる?」
「……行く。」
少し驚いた表情を見せると、すぐにふにゃっと笑って歩き出した。あの子にはなんとも思わなかったのに…いつの間にか、そういう目で見ているのかと自覚すると顔が熱くなった。思わず行くと言ってしまってから、そうなる事も覚悟するべきだろうか…なんて考えながら歩いていると前を歩いていたはずのはるが隣に並んでいた。
俺、男相手に反応すんのかな…変な心配をしながらも先輩の家に向かった。
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