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【一也視点】可愛い志信を嫁に出す(下)

俺は勿論大学に行った。良い大学を出て、なるべく良い所に就職して、志信に会うアルファを探すためだ。 自分でも人生の目標設定間違ってるなって思ったけど、とにかく俺は夢中になったら周りが見えなくなるタイプなんだよ。 そんなこんなで俺は授業こそ真面目に出ていたが、それなりに暇でそれなりに遊ぶ相手もいるという学生生活を送っていた。 20歳を過ぎれば酒もよく飲むようになったし、そうなるとますます志信と会うことが少なくなっていった。 そんなある日突然夜中に志信から電話がかかってきた。俺は先輩の家で宅飲みして眠りかけてるところだったんだが、志信が苦しそうな声で「今からうちに来てくれる?」って言うからびっくりして目が覚めた。俺は大急ぎでタクシーに乗って志信のアパートに駆け付けた。 「どうした志信!?」 「一也ぁ…ひっく、僕、苦しくて…1人じゃどうしていいかわかんなくなって…ごめん…でもやっぱり帰って…」 「はあ!?お前、そんな状態のお前置いて帰れるわけねーだろ!」 志信はどうやらヒートの最中らしく、全身汗と精液にまみれて震えていた。 「おい、どうしたらいいんだ?」 「ぅ…苦しいの…ここ、ここが…」 志信は尻の穴に指をつっこんで開くように動かしている。オメガのヒート中なのでそこは女性器のように濡れていた。 「一也…お願い入れて…中で出してもいいから…」 「何!?俺が?!」 「ダメ?お願い、今回だけだから…男の人に入れて貰ったら治るって先生が言ってた…こんなこと一也以外に頼めないから…ぁ…」 酔いなんて完全に吹っ飛んで、こめかみの血管がどくどくいい始めた。 俺…志信のこと抱いていいってこと…? 「早くぅ…お願い…」 志信の切羽詰まった声を聞いて俺は腹を括った。ええい、こうなったらやってやる。 発情した志信を見るのはこれが初めてではなかった。一度アポ無しで訪問したらヒート中で仕事を休んでいる志信が家に居たのだ。俺はどうせその日は仕事で不在だろうからドアに出張土産を下げて帰ろうと思っていたので、中から物音がして嬉しくなって鍵のかかっていないドアを開けた。 そしたら、志信が自慰にふけってる最中でギョッとして扉を閉めて逃げ帰ったのだ。志信は行為に夢中だったからこちらには気付かなかった。 あのとき家に帰るまで勃起しないように別のことを考えるので必死だった。それが今、発情した志信を抱いていい状況になっているのだ。俺はあまりの興奮で触ってもいないのにペニスが硬さを増すのを感じた。 俺は今の今まで志信と本気でどうにかなろうなんて思っていなかったし、なるべく志信のことを思い出さないで済むようにと彼女に選ぶのはタイプの全然違う女ばかりだった。 だから、男を抱くのは初めてだった。ちょっとうまくいくのか不安だったけど、ヒート中のオメガのアナルは女性器同様に分泌液が出るので、女とするのとほとんど変わらなかった。 ただし、気持ちよさは格段に志信とのセックスが上だ。俺は自分の気持はなるべ抑えるように抑えるようにと努めて来たが、この状況で一体どうやって気持ちを隠せというんだ? 俺は志信の身体を抱きながら何度も好きだとうわ言のようにつぶやいてしまった。 事後、何もなかったかのように身体を綺麗にしてやって俺は志信の部屋を後にした。 ◇ ◇ ◇ ◇ そしてヒート明けに志信と会ったときに彼に言われた一言が俺の心をグサリと突き刺した。 「一也は僕のことが好きなの?」 俺は迷った。 ここで回答を間違えれば俺たちの関係が終わることになる。 好きっていうのが正解か?それとも好きじゃないと答えた方がいいのか? もし好きって言ってあいつが受け入れてくれたら…あいつと付き合えたら、そんなに嬉しいことはこの世にない。 だけどもし振られたら?もう友達ではいられない。 だけどそんなのは絶対耐えられない。友達でいいから俺は志信のそばに居たい。 それなら…好きじゃないって言うのが…安全だ。 正解かはわからないけど。 結局俺の選んだ答えはこうだ。 「気色悪いこと言うな。友達としては好きだけど、恋愛としての好きじゃない」 言いながら心臓がドカドカやかましく鳴ってて俺はこのまま死ぬんじゃないかと思った。 答えを聞いた志信はホッとしたように微笑んだ。 「良かった、本気で好きって言われたらどうしようかと思っちゃったぁ。僕一也のことそんな風に考えられないし」 この言葉を聞いた時、俺の心はボコ殴りされて一旦死んだ。 可愛い顔しているが、こいつはたまに悪魔なんじゃないのかってほど残酷だ。 いや、これが志信の良いところなんだ。人を陥れようとか思わない素直さ。 頑張ろうとする健気さ。グレたりしてもおかしくない状況で、真っ当に生きようと努力してる。 おばさんが厳しい人で、貧乏でも他人に迷惑がかかるようなことだけはしてはならないときつく言い渡していた。 だから、ちょっと困った時気軽に人に頼れないところがある。 バカだけど、可愛げがあってお茶汲むくらいしか取り柄もないけど俺はワンチャンアルファの嫁になるのも夢じゃないと思っていた。 最終的に貰い手がいなかったら俺が嫁にもらうけど、いつか白馬に乗った王子様が現れてハッピーエンドになるところを見たいってずっと思っていたんだ。 そしたらまぁ…現れた王子様はちょっと頼りないアルファ様だった。態度だけはデカいがとんだ鈍感チキン野郎だ。 しかし2人は運命のつがいってやつらしくて多分志信に他の男を探せと言っても無駄だろう。ベータの俺にはよくわからんが。 あの日突然あの男が現れて、志信があいつを見る目を目の当たりにして俺は自分の恋心をすっぱり諦める決心がついた。 志信は今まで見たことも無いような穏やかで愛情のこもった目で鳳社長のことを見ていた。 この男のことがそんなに大事なんだな… 俺は今まで志信には志信のことをなんでも任せられるスーパーマンみたいな奴が良いと思って探しに探していたけど、志信が相手に愛情を持って聖母みたいに包み込んでやるっていう関係も案外良いのかもしれないな。 ただし、俺からそんなことを口にしてやる義理はない。「絶対に幸せにしないと殺す」って帰り際社長に耳打ちしてやった。 あいつは鼻で笑って「当然だ」と答えた。 本当か~~? 俺はいつまでもお前たちの面倒見てられないんだからな。 俺だって忙しい身なんだ。例えばこの、最近同じ部署に配属された後輩。こいつが志信並にやらかすタイプのそそっかしい奴で目が離せない。あーなんか似てるななんて思ったら首には噛み跡があって案の定オメガだった。 まだ20代半ばのはずだがもうつがいがいるようだ。ちっ。羨ましいとか思ってねーからな。 とにかく、俺は志信の他にもお守りしないとならない奴がいるってことだ。 だからこれ以上俺に迷惑かけるなよ。 ちょっと気が早いけど結婚おめでとう、志信。幸せになるんだぞ。 そんなことを考えていたら俺を呼ぶ後輩の情けない声がした。 「倉橋先輩~!すいませんこれ教えてください~」 「あ…?おい、それ前にも教えたろうが」 「え!そうでしたっけ?」 「ったくしょうがねぇな」 「えへへ、さすが先輩!アルファ並に優秀で優しい~!」 「おだてても何も出ねえぞ」 俺は今日もアルファに劣らぬベータとして堅実に働いている。 〈完〉 ーーーーーーーーーー 以上、一也の恋心編でした。 一也もなんだかんだ、ここぞという時には本心を言えなかった男の1人です。 志信にその気がなかったので恋心を打ち明けたとして上手く行ったかはわかりませんが、かといって告白していたとしても友情は変わらなかったような気もします。 素敵な恋人を見つけて楽しい人生を送ってほしいなと思っております! 次からは社長の実家訪問編(志信視点)となります。

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