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【一也視点】2.どういうつもりだ?
「あー、そうだったんだ。いや、すまない……考えてみたらこんなこと聞くのってセクハラだよな」
「なんでですか?セクハラなんて思ってないですよ。僕、教えるの嫌だったら適当に流してつがいがいるって答えてますし」
「ああ、それもそうか。」
本当のこと話して良いと思えるくらいには信頼されてるってことかな。
「僕……このこと誰かに話したの久しぶりです。倉橋先輩って優しいですよね、すごく」
金子は照れたように微笑んだ。もしかしたら俺が金子に特別な好意を持ってるから優しくしてるんだって思われたかな?
どうせつがいがいるんだから間違いの起きようもないだろうと、逆に露骨に世話を焼きすぎたかもしれない。
実際はこいつが志信にちょっと似たところがあって、俺はあいつの代わりに金子を構いたくなっただけなんだと思う。優しいわけじゃない。
なんとなく後ろめたい気分だった。
「別に優しくはねーよ」
金子はうつむき加減で話し始めた。
「僕ミスが多くて、前の部署でも浮いちゃってて……」
「うん」
「このチームに入った時も、皆に迷惑かけないように頑張ろうって思ってたのにやればやるほど空回りして……結局また孤立すると思っていたから、倉橋先輩が助けてくれるのすごく嬉しかったんです。ありがとうございます」
「別に……先輩として当然だろ」
少し酔った様子の金子は目鼻立ちの整った小さな顔をピンク色に染めている。つがいがいないと聞いたからってわけじゃないが、魅力的な容姿だと改めて思う。
ベータだろうがアルファだろうが、こいつが本気で落とそうとしたら誰でもすぐに夢中になるんじゃないかな?
どこか抜けてるんだけど、うなじの噛み跡といい、ガキなのか大人なのかよくわからないアンバランスさがあってそれが妙に男を惹き付ける……ような気がする。
とはいえ、会社の先輩と後輩という仲なので俺から口説こうとは思わない。社内恋愛は禁止されていないが、別れた時のことを考えると社内で恋人を探す気にはなれなかった。
ーーー大体さっき失恋したって打ち明けたばかりだろ。
だがこんなことを心の中で言い訳しなくちゃならないくらいには、俺は金子に惹かれているということなのかもしれない。
帰り道、金子がまた俺に礼を言った。
「先輩ごちそうさまでした。楽しかったです」
「ああ、俺も楽しかったよ」
「また飲みに誘って貰えますか?」
「え?ああ。もちろんいいよ。じゃあな」
俺が手を振ると金子は周囲に誰もいないのを確認するような仕草をした。そして突然近寄ってきて背伸びをすると俺の頬にキスした。
「えっ」
「おやすみなさい、先輩。また来週」
自分からそんなことをしておきながら金子は顔を赤くして恥ずかしそうに踵を返すと早歩きで去ってしまった。
「なんだよ……あいつ」
俺は金子の唇が触れた頬に手を当てた。
どういう意味だ?
別に好きだとか言われたわけでもなんでもない。酔っ払いが単なる挨拶として頬にキスしただけかもしれない。なんならあいつは実は帰国子女で、これくらいの挨拶は普通って思ってるのかも?
「なわきゃねーか」
どうやら金子に気に入られたようだ。あいつにつがいがいないのなら、恋愛に発展しても構わないんだよな。
いや、何考えてるんだ俺。
「どうすんだこれ……」
面倒なことになったと思う半面、嬉しいような浮ついた気分で俺は帰路についた。
金子が最後に飲んでいたサングリアの香りがまだするような気がした。
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