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【一也視点】1.気になる後輩
最近俺のチームに入った後輩がいる。金子直央 というオメガの26歳男子だ。見た目はわかりやすいオメガってかんじで、小柄で華奢な体型にかわいい系の顔立ち。たぶんモテると思うけど、そういう意味で声を掛けられることはほぼ無いだろう。なぜなら、金子のうなじにはもう薄くはなってるものの噛み跡がガッツリついているからだ。
そう、彼にはつがいがいるらしい。
俺がガキの頃からずっと片想いしていた相手もオメガだった。だからなんだというわけじゃないが、こいつのそそっかしいところが元想い人の志信によく似ていると初対面ですぐに思った。
しかしこのタイプのオメガは誰かしら守ってやりたいと思うアルファ様が現れるのが定石らしく、どいつもこいつも相手がいやがる。
別に金子のことがタイプで付き合いたいと思ったとかそういうわけじゃないけどな。
とりあえずその金子というのはミスが多くて、チームに配属された後1ヶ月もしたら若干周りから疎まれるようになってしまった。まぁ、迷惑掛けられる側としては仕方がないよな。
だけど俺はこういう奴に対しての耐性がめちゃくちゃあるので別になんとも思わなかった。志信相手にしてると思えば、まだ金子の方がマシなくらいだしな。
しかし、そうこうしているうちに金子はちょっと落ち込み始めた。俺は気にしてないが、自分が他の奴らになんて言われてるか薄々感じてるようでちょっと気の毒になってきた。ずっと手のかかる幼馴染の面倒を見てきたが、最近俺の代わりにそいつの面倒見てくれるアルファ様が現れたんで俺は暇だった。だからちょっと金子の面倒を見てやろうと思ったんだ。
どうせこいつもつがいになってる彼氏か彼女がちゃんといるんだし、別に必要ないかもしれないけど先輩としては元気づけるため映画にでもと思って誘ってみた。すると二つ返事で行くと言うんで早速週末に映画を見に行った。
俺たちは経理の仕事をしてるんで、こいつも興味があるだろうと金融系の話を題材にした最近の話題作を見に行ったんだ。だけどどうやら話がよくわからなかったらしく、見終わった後飯を食いながら感想を話しても首を傾げていた。
しかし、わかっていないにも関わらず「面白かったです」と満面の笑みで返されたのでこちらとしてはそう悪い気はしなかった。
ちょっと抜けてるけど愛嬌は抜群に良い。俺はこういう奴に弱いんだよな。
恋愛抜きにして、仕事上はこいつに負担がかからないようにフォローしてやんないとなって思うようになった。
何せ志信が嫁に行って暇になっちまったからな。うん。ただそれだけ。
金子も俺がなにかと気にかけて声かけたりしてやるんで、段々懐いてきた。
それである日仕事終わりに飲みに行こうってことになった。一応彼氏さんか彼女さんに悪いと思って2人で大丈夫なのか、別のメンバーも呼んだ方がいいか聞いたけど「2人で大丈夫です」と笑顔で言うので居酒屋に行った。
何度も言うけど俺に下心は無いからな?相手いる奴に手を出したりはしねーよ。
飲みながら話してるうちに、恋愛や結婚の話になった。俺は金子となるべく打ち解けたくて失恋の話をした。
「俺さぁ……ガキの頃から好きだった奴が最近別の男と結婚することになったんだよね」
金子はキョトンとした顔で俺を見た。俺の第2の性はベータだが、見た目や実力はアルファ並と評されることが多い。そんなパッと見アルファのような大男が弱音を吐いたので驚いたのだろう。本当のアルファなら、プライドが高くてこんなことをオメガの奴に打ち明けるなんて絶対に有り得ないからな。
「金子は今仕事で挫折を感じてるかもしれないけど、平気な顔して働いてても実は悲惨な奴が身近にいるんだぜ」
こう思えば少し気が楽になるだろう、くらいの気持ちで俺は話した。
「ほら、お前はつがいってやつがいるんだろ?仕事でミスしたって、帰って恋人と仲良く出来てるならそれでいいんだよ」
だけど金子は意外なことを言った。
「僕、実はつがいはいないんです」
「え?なに?」
噛み跡ばっちりあるし隠してもいないのに?
「でも、この噛み跡があると変に声かけられないんで便利だから……わざと見えるようにしてるんです」
あーなるほど、虫除けってわけか。
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