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3-8.最終日と帰国と一也の恋人
最終日の朝は、またラウンジで匠実にお粥を食べさせてから外へ出た。朝食はしほりさんおすすめのパンケーキと卵料理のお店に訪問することにした。ホテルから徒歩10分以内だったので、現地で借りたベビーカーに匠実を乗せて歩いて行く。
クリーム色の外壁にピンクの屋根の可愛らしいお店だ。店内は天井が高く開放的で、カジュアルな雰囲気なので子連れでも入りやすい。
真っ赤な色のパンケーキが有名らしく、僕はそれを含む3種類のパンケーキが同時に楽しめるメニューを選んだ。宗吾はエッグベネディクトを頼んで2人でシェアして食べた。
出てきたのはどちらもアメリカンサイズでなかなかのボリュームだったけど味も美味しい。
その後は午後空港に向かう前にもう一度買い物をして、お昼ご飯にはホテルのペストリーショップでサンドイッチを買った。
そうこうしているうちにあっという間に帰る時間がやってきた。
「まだ来たばかりな気がするのにもうここともお別れかぁ」
「志信はここが気に入ったみたいだな。また来よう」
「うん、いつかまた来れたらいいな……」
「ちゃんと連れて来てやるから安心しろって。それにもっと他に行きたい所が出てくるかもしれないし」
「うん」
帰りは来たときと逆に、ホテルから送迎の車に乗って空港へ到着。チェックインしてお土産で重たくなった荷物を預けて搭乗口へ進む。
グアムの空港でもラウンジが利用できたのでそこで時間を潰したけど、来る時とは違ってやはり疲れていてソファに座ったら眠たくなってきた。
「志信、眠たかったら寝ていいぞ。まだ時間あるし」
「ん……でも大丈夫」
「起こしてやるから」
「ごめん、ありがとう。じゃあちょっとだけ寝るね」
匠実も疲れているのかさっきから抱っこ紐の中で寝ている。このまま地上で寝ちゃうと飛行機で寝てくれなそうかなぁ……なんて思いながら僕は気づいたら眠っていた。
宗吾に揺り起こされ目を開ける。ちょっと寝たお陰で少し頭がすっきりしていた。
「ああ、ほんとに寝てたよ僕」
「うん。そろそろオムツ替えて搭乗口へ行こう」
結局最後まで宗吾におんぶに抱っこになってしまった。帰りの飛行機も、搭乗してから飛ぶまでの間が結構長くて眠くなり、そこはなんとか起きていたけど飛び立ってしばらくしたら匠実も寝たので僕も眠った。
行きの飛行機はわくわくして目が冴えていたけど、帰りは寝たり起きたりしつつ気がついたらもう日本の上空だというアナウンスがあった。
匠実は疲れからか、行きより少しぐずり気味。でも、宗吾と交代で抱っこして揺らしながら通路を歩いてなんとか乗り切った。
到着ロビーに出たらなんだかホッとした。もう夜なので、匠実には機内で離乳食とミルクをあげて夕食は済ませてあった。帰ったら即お風呂に入れてねんねだな。
と、結婚式のときも思ったけど旅行から帰っても「何もしないでそのまま寝ちゃおう~」ができないのが小さな子どものいる親のつらいところだ。
匠実を寝かせたら2人とも一気に脱力してしまい、荷物には手を付けられずお風呂だけ入ってベッドに倒れ込んでしまったのだった。
「はー、旅行は楽しいけど俺は志信の匂い嗅ぎながら家のベッドで寝るのがやっぱり1番だな」
「たしかに。旅行するといつも生活している家のありがたみがわかるかも」
「おやすみ」
宗吾は僕の首筋に鼻を埋めた。
「おやすみ、宗吾」
◇ ◇ ◇
楽しかった旅行から2週間が過ぎた。今日は久々に一也に会うことになっていた。旅行のお土産を渡したいと連絡を入れたら、”会わせたい奴がいるから連れて行く”と返事が来た。
会わせたいって、だれかな?
そう思いつつ待ち合わせのカフェに行くと、一也と一緒に来ていたのは僕より少し小柄な青年だった。年齢も少し若そうかな。
一也と会うのは結婚式の時以来だ。
「久しぶり、一也」
「よお。元気そうだな。旦那も元気か?」
「うん。おかげさまでね。えーっと、それで……」
「ああ、こいつのこと今日お前に紹介しようと思って連れてきたんだ。会社の後輩なんだけど」
あ、なるほど。後輩さんなんだ
「はじめまして!倉橋さんの後輩の金子直央 です」
「どうもはじめまして。一也の友人の藤川……じゃないや鳳志信です」
結婚して苗字が変わったのだけどまだ言い慣れない。
少し雑談していたら注文したコーヒーが来た。すると一也が急に改まって言う。
「志信。報告したいんだけど」
「え?何?」
「あのさ、俺たち付き合うことにしたんだ」
「え!あ、そういうこと!?」
いきなり後輩くん紹介するってどういうことかと思ったら……
「ああ。実は今もう一緒に住んでて」
「そうなの!?」
「結婚前提に付き合ってる」
「うわ!本当に?おめでとう!」
すっごく嬉しい。でも嬉しい半面僕はなんだか少しだけ申し訳ない気持ちになった。これまで一也にそんな人がいるなんて全く聞いてなくて、自分のことでいっぱいいっぱいだった。一也は僕のことすごく心配していつも気にかけてくれてたのに……友人として情けない。
「なんかごめん。僕何も知らなくて……いつも僕の相談には乗ってもらってたのに」
「あ?何勘違いしてんだよ。俺がお前に恋愛相談なんてするわけないだろ」
「へ?」
なんだよその言い方。僕だって恋愛経験のひとつやふたつ……
「とにかく、そういうことだから。な?」
「はい!不束者ですが、今後ともよろしくお願い致します。一也さんのことは僕が幸せにしますのでご安心ください!」
金子くんはぺこっと頭を下げた。一也は彼の発言に思い切り顔を顰めている。
「おい、直央。馬鹿なこと言ってんなよ」
明るくて可愛らしい感じで一也にお似合いに見えた。
しかし、彼が深々と頭を下げたので僕は彼のうなじが見えてしまった。
え……?噛み跡……?
彼のうなじには薄くなりかけた噛み跡があった。ここ最近つけられたものとは到底思えない色褪せた古い傷。
つがいがいるオメガなの……?でも、一也はベータだ。しかも付き合い始めたのはそんなに前じゃないみたいだし……
僕は瞬時に疑問がいくつも頭に浮かんだけどなんとか微笑んで返事をした。
「あ……こちらこそよろしくね」
ちょっと不思議な気がしたけど、彼らなりの事情があるのだろう。僕が口を出すことではない。なにより2人とも幸せそうなので、変に突っ込んで水を差すようなことをしたくなかった。
◇ ◇ ◇
2人にコーヒーやチョコレートなどのお土産を渡して別れ、家に帰った。僕はまだ噛み跡のことが引っかかっていたけど、帰宅したのを見計らったように一也からメッセージが届いた。
”噛み跡見たよな?気になったと思うけどまた今度話すよ。とりあえず今あいつにつがいはいないから安心しろ"
一也は僕の考えなんてお見通しだった。
「そうなんだ……」
噛み跡はあるけど、つがいがいないということは考えられる可能性は一つ。つがいの相手が亡くなっている場合だ。
明るくて元気そうな子に見えたけど複雑な過去を持っているのかもしれない。いずれにせよお互い納得で結婚を前提に付き合っているというのだからおめでたいことだ。
「一也、幸せになってほしいな」
一也のことを幸せにすると胸を張った彼の笑顔を思い浮かべる。
可愛らしい見た目のオメガの青年は溌剌とした魅力に溢れていた。
グアムで買ってきたチョコレートを指で摘んでみる。ちょうどハート型のチョコレートだ。
今頃彼らも一緒にこれを食べているのかな?
僕はそんなことを考えながらナッツ入りのチョコレートを口に放り込んだ。甘い味と香りが口いっぱいに広がった。
〈完〉
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というわけで新婚旅行編完結です!
行き先は迷いましたが以前行ったことのあるグアムにしました。子連れでは行ったことありませんが当時泊まったホテルが子連れも多くていつか家族で行きいなと思った記憶からそのホテルをモデルにしてます。
書いてたらすっっっごく旅行したくなってきました。このご時世でなかなか海外へ行けないですし、気分だけでも楽しんで貰えていたら幸いです。
そして突然ながら最後で一也の恋人を登場させました。
以前の一也視点で最後に出てきた後輩くんと付き合うことになっております。
二人がどういう経緯で恋愛関係になったのかというのをこの後書きたいと思います。
もし読んで頂けたら嬉しいです♪
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