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【一也視点】9.【最終話】金子の過去とそれから

俺たちは付き合うことを決め、金子は急に元気を取り戻した。そして、島本には逆に監査室の人間と必要以上に親しくしていると上司にバラされたくなかったら言うことを聞けと脅し返してあいつを異動に追い込んだ。 え……?金子怖いんだが? もしかして実は最強なのだろうか。 彼曰く「先輩さえ人質に獲られてなかったらなんでもできますよ」だそうだ。 「せんぱーい!ここ合ってますかぁ?」 「ああ?どこだよ……ってまた同じとこじゃねえか。いい加減自分でちゃんと見ろよ」 「えー。でも先輩がチェックしてくれなかったからミスして僕セクハラされたんですよぉ」 「お、おい!声がデカいって」 「誰も聞いてないですってば。あはは」 こいつ…… ◇◇◇ 「そういや結局お前のつがいの話ってちゃんと聞いてないよな」 「え?あ、そうでしたっけ」 「聞いたらまずいの?」 「いえ全然」 金子はまた俺にあの紅茶を淹れてくれた。 「僕の運命のつがいが……実の叔父だったんですよね」 「え!叔父さん?」 「はい。それで、まぁ叔父と甥じゃぁ色々まずいじゃないですか。それがわかってすぐに……僕が15歳のときでしたが、叔父は姿を消しました」 「そうだったのか……」 「はい。父が叔父に頼んで遠くへ移り住むようにしてもらったと後から知ったんですけどね。そんなわけで僕の恋愛観はかなり歪んでいると思います。運命のつがいと引き離された以上、一生誰とも恋をせずに生きるんだと思って……でも普通の大学生でしたよ。別に恋愛しなくても楽しいことは色々ありますから」 まあ、それもそうだよな。恋愛だけが人生じゃないし。 「そんな時突然叔父が目の前に現れたんです。驚きました。彼はがんを患っていて……余命3ヶ月と宣告されていました」 「え、そんな……」 「叔父は二度と会わないつもりだった僕に”つがいになってほしい”って泣きながら言いました。このまま1人で死んでいくんだと思ったらもう居ても立ってもいられなくなったそうです」 20歳そこそこの金子にはそれを断ることはできなかったという。 つがいになることを承諾したが、恋愛感情はお互い無かった。それで二人の間に肉体関係が無かったというわけだ。 「入退院を繰り返して……彼は亡くなりました」 金子は複雑な表情を見せた。 「自分の運命のつがいとはこんな形でしか一緒になれなかったので、叔父が亡くなったとき寂しいと思う半面、運命から解放されたという清々しい気持ちもありました。こんなこと言ったら酷い人間だと思われるのはわかってるんですけどね」 「そっか……でもそうだよな。そう思っても仕方ないって思うよ」 「ありがとうございます。解放されたとはいえ、それ以降も僕は恋愛には前向きになれなくて。このまま1人で死んでいくんだろうなって思ってました」 「え?」 「だけど先輩のことを好きになって、僕すごく人生楽しくなってきちゃって。長生きしたいなーって今は思ってます。先輩のこと幸せにしないといけないですしね」 金子は明るく笑った。 この、能天気で何も考えていなさそうに見えた彼にこんな事情があったとは思いもしなかった。 「お前、強いよな……」 「え?そうですか?」 「俺よりよっぽどお前のほうが精神的にタフだよ」 「えへへ、褒められちゃいました」 金子は嬉しそうだ。 「俺も長生きしないとな」 「ですよね~!それと何度も言ってますけど僕たちも早く結婚しましょうね、一也さん」 「ああ?全く、せっかちな奴だなぁ」 最初会った時金子に対して志信に似ていると思ったが、今にしてみると全く正反対の性格をしている。 だけど今はそれが頼もしくて、愛しくてたまらないのだった。 〈完〉 ーーーーーーーーー 最後まで読んでいただきありがとうございました! 金子の過去の描写がかなり粗いんですが、アルファポリスさんでエントリーしていたコンテストの規約で18歳未満の性描写NGというのがあるので本文ではきちんと書けませんでした。 『余命宣告された叔父とつがいになった話』という金子くんの過去を語る独白体のショートショートを書いたのでこの次に載せます。

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