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【金子視点】余命宣告された叔父とつがいになった話

それじゃあこれから僕が実の叔父とつがいになった話をさせてもらいますね。 ええ、いいんです。いつか誰かに全て話したいと思っていましたので。 だけどこんなこと結婚相手には言いにくいじゃないですか。それで、聞いてくださるならあなたがいいと思ったんです。 つまらない小説の朗読でもされたと思って気楽に聞いてください。あ、このお菓子美味しいんですよ。どうぞ召し上がりながら寛いでお聞きになってください。 では、つがいの話ですね。僕が叔父とつがいになったのは20歳の時のことですから……今から6年前ですね。あの春から夏にかけての数ヶ月の経験は、一言で良かったとか悪かったとか説明できるものではないです。 15歳で叔父のことが運命のつがいだとわかりました。きっとその前から叔父の方は気づいていたでしょうね。僕は子どもでしたからよくわかりません。ただ、叔父のことは小さい頃から好きでしたよ。でもどんな家庭でもそうじゃありませんか? 特に叔父は父よりずっと若かったですから、えーと…叔父は13歳上なんです。父と僕とは年齢が30歳離れていますから、若い叔父は一緒に遊んでくれるお兄さんみたいな存在でしたね。 それで15歳のときのことです。休みの日に叔父が僕の家に来ていました。両親は買い物に出かけていて家の中には僕と叔父の2人きりでした。 僕はオメガだと既に検査でわかっていましたがまだヒートが来るのには早くて、というのも割と体の発育は遅めだったんですね。今も小柄な方ですが。 それで両親もアルファの叔父と2人きりで残すのに少しも警戒心なんて抱いてなかったわけです。 ですが、どうしたことか僕は突然発情してしまったんです。後から考えたら運命のつがいが近くにいたんで早くヒートを迎えちゃったみたいですね。 いつもは冷静な叔父もさすがに不意打ちをくらってラット状態になってしまって……お互い理性が飛んでしまいました。ヒートってすごいですよね。薬で抑えが効くからまだいいものの……って、え?薬が飲めない体質?ああ、副作用きつい方もいるみたいですもんね。それは大変だ。僕はあの薬飲んでますよ、1番売れてる……え!?あの高いやつですか?それすっごくお金かかりますよね……うわー、わかりますわかります。 ああ、そう。それで叔父にキスされて、うーん記憶も曖昧なんですけど、気持ちよくなってしまって……あちこち舐められてるときに両親が帰って来たんですよ。 まぁ、その後はご想像の通りの修羅場ですよね。15歳の息子が叔父に押し倒されてるところなんて見たら親はそりゃ逆上もします。 すぐに両者抑制剤の注射を打たれてなんとか大事には至らず未遂で終わりました。 ちなみに僕は中学に上がる頃から父の言いつけで必ずネックガードは付けていましたから、うなじを噛まれることはありませんでした。 そして叔父は僕の前から姿を消しました。後からそれは父がそうさせたのだと知ったんですけどね。叔父は親戚の集まり等にも一切現れなくなりました。その当時は単に海外に行ったとだけ聞かされてました。どこの国のどこの街かも教えては貰えませんでした。 運命のつがいへの強い執着というか……あの吸引力みたいなものは実際に感じなければ説明が難しいですよね。だからこそオメガのあなたにこの話を聞いてもらいたかったんですけど。 とにかくそれに気づいてしまってからは、他の誰かを見てももうなんとも思えなくなりますよね。 ええ。そうです。わかっていただけて嬉しいです。 それから僕は大学生になるまで恋愛もせず過ごしました。 このまま一生誰とも恋をせずに生きるんだろうなと思って色々諦めてました。手の届く範囲に運命の相手がいないので、特に苦しいとは思いませんでした。結構普通の大学生でしたよ。別に恋愛しなくても楽しいことは色々ありますから。 ええ、ですよね。薬で抑えられればなんとかなりますし。面倒ではありますけどね。 そんな時……大学2年の春だったんですが、突然叔父が目の前に現れたんです。 驚きましたが、匂いですぐに叔父だとわかりました。彼はステージ4の膵臓がんを患っていて……最後に会ったときより痩せて顔色も悪かったんです。余命3ヶ月から6ヶ月と言われたそうです。 それで、二度と会わないつもりだった僕に「つがいになってほしい」って泣きながら言いました。彼はコペンハーゲンで産婦人科医をしていたそうですが、このまま1人で死んでいくんだと思ったらもう居ても立ってもいられなくなって帰国したそうです。父が親族との関わりを無理矢理断たせていましたから頼る人もいなかったみたいで…… 向こうで恋人をつくることがなかったのは、僕と同じような理由だと言っていました。 運命の相手が海を越えた異国の地にいるというだけなんですけど、一度出会ってしまっただけでこんなに縛られるものなのかって不思議ですよね。 こうやって余命数ヶ月の人間につがいになってくれと言われて、20歳そこそこだった僕に断るのは無理でした。 僕はつがいになることを承諾しました。 恋愛感情はもうお互い無かったですね。あれから時間が経ちすぎていました。僕の恋愛観はかなり歪んでいたんだと思います。叔父は叔父で、恋人や家族が傍にいなかったから、死を目前にして誰かとの強いつながりが欲しかったんでしょうね。 彼が死ぬときに少しでも怖くなかったらそれでいいって僕も思いました。 だから僕たちは肉体関係にはならなかったんです。うなじだけ噛んで貰いました。 そのときはたしかに叔父とどこか深い部分でつながれたような感じはしましたね。 叔父の癌は全身に転移していて手術は無理でした。それでいて化学療法も拒否したんです。僕がつがいになって、そう長い間僕を束縛するわけにはいかないからって。だから数ヶ月でいいから一緒にいてくれと言われました。 ちょうど大学も夏休みに入って、僕たちは叔父が買った田舎の家でその夏を過ごしました。 叔父は長い間海外生活を余儀なくされたんで最後は日本らしい暮らしをしたかったそうです。叔父の祖父……つまり僕の曽祖父ですが、彼の家に似ているという理由で一軒家を選んでいましたね。 僕が生まれたときには既に亡くなっていたんで、僕はそこへ行ったことはなかったですが、叔父は小学校の夏休みに祖父の家に泊まりに行ったのが楽しい思い出だったと言ってました。 こんな話ですいません、ほんとに。僕もよくわからないんです。身内とはいえ疎遠になっていて久しぶりに再会した叔父と、僕の会ったことのない曽祖父の家に似た家で過ごすなんて……こんなこと言ったら引かれるかもしれないけど、20歳の僕の感想は「つまらない」でした。 だって、周りに何も無いんです。本当の田舎で……暑い日に縁側でアイスとかスイカとか食べさせられました。エアコンは引っ越す時に設置したんですけど、わざわざ切って扇風機だけつけて…… 何が楽しいんですかね?叔父は、これが良いって言って笑ってましたけどね。 具合が悪いのにそんなことして馬鹿みたいですよね……え?涙?あ……僕ですか?何泣いてるんだろう。今更…… 結局彼は入退院を繰り返して……お盆明けに亡くなりました。 なんでしょうね。すごく好きだったとか、愛していたとかいうわけじゃないんです。だって15歳以降ずっと会ってなくて死ぬ数ヶ月前に再会したばかりでしたから。 しかも彼は病気で、一緒にどこに行くわけでもなかったし……弱っていくのを僕は眺めていただけでした。 でも運命のつがいなので、彼が亡くなった後は半身を失ったみたいな気がしましたね。 もう恋愛をする気も無いし今度こそ一生1人で生きていこうって思いました。こんなつらい思いをするのはもう嫌でしたからね。ちょうどうなじに噛み跡が残ってるんで、周りは僕につがいがいると思ってくれるから言い寄られることもなくて楽でした。 はい、そうです。それから仕事で異動があって、一也さんに会ったんです。 僕……自分がこうやって誰かを好きになることがあるとは思ってませんでした。それに相手はベータの方でしたし。でもそれがちょうどよかったんだと思います。 これまでずっとバース性に縛られてきたので、ベータの一也さんとの恋愛で自由になれたっていうか……人並みに幸せになろうって思えたんですよね。 これで僕の話は全部です。話したら気分がすっきりしました! 結婚式の相談って言っておきながら昔話ばっかりしてすいませんでした。聞いて下さってありがとうございます。 ーーーーーーーー これで本編・番外編含め本作は全て完結としたいと思います。 最後まで読んでいただき本当にありがとうございます!

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