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17.入籍と退院後初のヒート
俺は傷つくのには慣れ切っていて、母親に言われたこともその日はショックだったけど数日経つと忘れてしまった。いちいち悲しんでいたらΩなんてやってられない。
後日父があの日のことを謝罪したいと言うので俺と礼央と父の3人で会った。
父は菓子折りの他に俺の好きなチーズケーキを買って家に来てくれた。
来るなり平身低頭して謝る父を礼央はなんとか宥めて、最後は和やかに別れた。
その際婚姻届の証人として父に記載してもらった。
別れ際、俺に内緒で父は礼央に何ごとか耳打ちしていた。
後からどうしても気になると俺がせっついて、内容を教えてもらった。
あの日母が言っていた"健康で良い子”な親戚の女の子は桐谷の新しい婚約者として紹介したからもう薦めることはないので安心していいとのことだった。
父は俺に桐谷の新しい婚約者の話を聞かせまいと気遣ってくれたようだ。
でも、正直この話を聞いてもなんとも思わなかった。
強いて言えば、あの桐谷によく身内をまた差し出せるなと母に呆れるくらいだった。
「ブリーダーのつもりなんだろうか?」と俺よりも礼央の方がよっぽど怒り呆れていた。
自分の息子を捨てた男に、親戚の娘を紹介してやるとは!とぷんぷん怒っている。
「いいじゃない、桐谷なんてどうでも」
「美耶さんは甘すぎます!俺は桐谷さんに怒ってますよ。あなたのことを蔑 ろにし続けておいて簡単に婚約破棄した上、よく恥ずかしげもなくその親戚と新たに婚約なんてできるよね!」
厚顔無恥とはこのことだ、と怒りながら部屋の片付けをしている。
「あいつはどうかしてるんだよ。何年も一緒に住んでたのに何考えてるかさっぱりわからないし」
「はぁ…美耶さーん。しっかりしてくださいよ。なんでそんなに平気な顔してられるの?」
「え…うーん。礼央が俺の代わりに怒ってくれてるからもういいかなって…」
それを聞いて礼央は手にしていた食器を置いて俺の方に近寄ってきた。
ギュッと抱きしめられる。
「本当に美耶さんは呑気すぎだよ…こんなに可愛い人をいじめるなんてお母さんも桐谷さんもどうかしているとしか思えない」
俺は苦笑する。
「なんだよそれ。お前は穏やかそうに見えて実は結構怒りっぽいよな」
「え!ごめんなさい。美耶さんが怒らないからつい腹が立って…」
礼央がしょんぼりするので背中をぽんぽんと叩く。
「別に嫌じゃないよ。俺、もうピリピリするのに疲れたんだ」
「美耶さん…辛かったね。もうずっとこの家でのんびり暮らしていいから。なにもピリピリする必要ないように俺が頑張って働くからね」
俺は礼央の顔を見上げて笑った。
「そうやって俺をだめにしようとしてるな?」
「とにかくしばらくは何もしないで家にいて。それより早く出しに行こう!婚姻届」
2名の証人のうち、もう一人分は礼央の父が署名してくれていた。
俺の母親の件がよほど堪えたのか、礼央の両親の方に挨拶に行こうとは言われなかった。
自分がΩで不妊ということを思うと、優秀なαの嫁になるのにふさわしいとは到底思えず、進んで挨拶に行く気にはなれない。
礼央の両親に申し訳ないという気持ちを拭いきれぬまま、俺は礼央と一緒に婚姻届を出しに行った。
区役所からの帰り道、礼央は嬉しそうな顔で言った。
「あ~これで晴れて美耶さんの夫になれた~!!!」
「ちょっと、声大きいよ。恥ずかしいって」
「どうでもいいそんなの!むしろ聞いて欲しい。みんなに」
俺達は笑いながら外を歩いていた。
するとふっと違和感を感じた。
気温が高いわけでもないのに急に身体が火照ってきた。
「あれ…もしかして…」
「どうかしましたか?」
「あ、やばいかも。礼央、薬…」
「え!?もうそんな時期だっけ」
「ちょっと早い気がする…薬たしかここに…」
急いでボディバッグから取り出した抑制剤を飲み、症状が落ち着いているうちにタクシーで帰宅した。
寝室のソファに座ると礼央が確認してくる。
「一応前にも話し合ったけど、もし美耶さんがしたかったら勿論俺はしたい。でも、まだ怖くてしたくなかったら俺は指一本触れないよ」
薬である程度症状が抑えられていて、今はちょっと微熱があるときくらいのしんどさだ。
頭もまだ回っていて理性もギリギリ保ってる。
「触られてみて…怖くなかったら…礼央としたい」
俺はすがるような気持ちで礼央の目を見た。
これまでも、ヒートのときだけは恥を忍んで桐谷に抱いてもらうよう頼んでいた。
この期間に1人で過ごすのは正直Ωにはきつい。
αに抱いてもらう方が断然身体が楽になるのだ。
だから礼央がいいなら俺はしたい。
でももしかして怖くなっちゃうかもっていう不安はある。
「優しくします」
礼央は真剣な目で俺を見た。
「うん。もう…辛いからベッド行きたい…」
ヒートのときだと、普段では考えられないような言葉がすらすら口から出てくる。
火照った顔で、目も潤んで視界が霞んできた。
はぁはぁと熱い息を吐きながら言う。
「触って礼央、お願い…」
「美耶さんの匂いやばいな…俺今日もちゃんと薬飲んでるのに。病院でヒート起こしたときとは比べ物にならないくらいだ。優しくするつもりだけど、俺が暴走したら腕でもどこでも噛んで止めてね」
礼央は顔をちょっと歪めて俺のフェロモンに抗おうとしているようだった。
いつもより険しい顔で、息遣いも荒い。
俺ももう薬の効果が薄れてきて限界だった。
いつもならあの薬…もう少し持続するはずなのに…
やっぱり運命の番が目の前にいると違うってこと?
「礼央…早く触って…はぁ、はぁ…」
熱い…早く中をぐちぐちゃにかき回してほしい…!
心の中を読まれたら絶対に引かれるようなことばかり頭に浮かんでくる。
孕ませて…中に出して欲しい…気持ちよくなりたい。
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