27 / 45

25.甲種Ωの排卵の秘密?

その後、事件のことも落ち着いたので俺達は早速#夫夫__ふうふ__#揃ってクリニックで妊活の指導を受けていた。 Ω専門クリニックなので、αの夫を連れて行く際は予め予約をし、特別な入り口を通って専用の部屋に入る。 前回診てくれた男性医師は礼央を見て快活に話し始めた。 「ご主人の検査結果は問題無いですね。精液量、精子濃度、運動率なども正常です。奥さんの方も、前回一度妊娠されていますし排卵の他の数値には問題は無いです。あとは排卵が上手くいくかどうかという点だけですね」 「そうなんですか、良かった…」 礼央もホッとしている。男性側が不妊の原因となることもあるし、なにせ男はプライドの高い生き物なので、精子のスペックを検査されて結果に気を揉まない者はいないだろう。 「それで先程カルテを拝見したらお二人とも甲種のΩとαでいらっしゃるんですね。いやぁ珍しいてすねぇ。もしかすると以前お付き合いされてる方と妊娠できなかったのは相性の問題だったかもしれないですよ」 「相性?」 怪訝な顔をする俺と礼央に向かって医師は説明する。 「はい。というのも、研究者の間で実は甲種Ωの妊娠は相手αの能力に依存するんじゃないかという説がありまして…これが実はサンプル数が少なすぎて研究にならないので検証もできないのですけどね」 「そうなんですか…」 「ええ、まぁちょっとした研究者の与太話程度に考えていただきたいんですけど」 俺が不妊と診断された時、排卵がうまく行ってないと言われていた。それが、前回のヒートで着床できた。本当に相手のαの能力によって排卵が引き出されたんだとしたら…礼央が運命の番だとしたら、それは十分あり得る気がした。 「Ω男性のヒートの周期は約3ヶ月に1回。奥さんも大体そのくらいのペースですから…自然にタイミングを取れるのが年に4回となります」 「はい」 「どうしますか?もしもっと頻回でタイミングを取りたいというご希望があれば、発情促進剤を使って最大1ヶ月に1回タイミングが取れるように出来ますが」 う…。ここで発情促進剤が出てくるのか。 「奥さんの年齢が32歳と言うことで、35歳になって妊娠するともう高齢出産となるんですよね。なので時間に余裕がたっぷりあるとも言えないんですが」 「うーん…」 以前無理矢理飲まされた時の感じから言って、なんとなくあの薬は身体に合ってない気がするんだよな。 俺が悩んでる姿を見て医師が言う。 「薬に頼るのに抵抗があるようでしたら無理せず、まずは1年自然にタイミングを取ることから始めましょうか?」 俺的にはそれがいいかなと思い礼央に同意を求める。 「礼央…それでいいかな?」 「勿論。薬を飲むのは美耶さんだから任せるよ」 俺は医師に向かって言う。 「じゃあまずは自然にやってみます」 「わかりました。それではタイミングのサポートだけさせてもらいますね。念のためヒート予定日から3日前くらいに予約を取って頂いて、卵胞の育ち具合と子宮内膜の厚みをエコーでチェックさせてもらいます」 「わかりました」 「奥さんはAMHの値は平均よりちょっと高いくらいで卵の在庫は問題無いと思うのでそこまで焦らなくても大丈夫でしょう」 卵巣内の卵の数は生まれた時に既に総数が決まっていて、そこから増えることはなく段々減るのみなのだという。 AMHというのは、卵巣の中に卵の数が残りどれくらいあるかがわかるホルモン値なんだそうだ。 この数値が低い場合、卵の在庫が少ないということらしくなるべく急いでタイミングを取ったり、より確実な人工授精や体外受精などの手段を早めに選ぶ必要がある。 今回の俺の場合はこの数値は問題無いそうだ。 「では今日は排卵誘発剤の一番弱いのを試しに出しておきますね。では、また次回」 「ありがとうございました」 俺たちはクリニックを出た。 今日礼央は1日休みを取ってくれていたので車で軽くドライブすることにした。 運転しながら礼央が呟く。 「甲種同士だから相性良いってのはあるかもなぁ…」 「あ、さっきの話?」 「はい。僕も一応遺伝子系の研究が専門なのであの話が気になって。αの甲種は一定数いるから調べられるかもしれないけど、とにかく甲種Ωが少ないから妊娠出産に関わらずどんな内容についても研究が進んでいないんですよね」 「そうなんだ」 「しかも妊娠出産となると倫理的な側面から実験が出来ないという事情もありますし」 そっか。例えば実験する条件が揃ったとしても、甲種Ωに甲種αの子を無理矢理産ませるなんて現実には出来ないよなぁ。 「美耶さんのように、甲種以外のαだと排卵がうまく行かないというケースだと、排卵の秘密を調べるにはただ体外に卵子と精子を取り出して受精させる実験をしても意味がないですし」 「ふーん」 「美耶さんが俺とのセックスでどうやって排卵するのかなんて、他の人に調べさせるわけにもいかないですからね」 礼央がニッと笑った。 「ちょっと、変なこと言うなよ!」 真面目な話をしてると思ったら急に冗談を言われて赤面した。 とにかく、今は先生に言われた通り排卵誘発剤を飲みつつ次回のヒートを待つのみだ。 先生も言ってたけど、妊娠については数値じゃわからないことが多くて何が起こるかわからないって。 もしかしたら、もっとリラックスした気持ちで過ごせてたら桐谷とも子どもができていた可能性もあるのかなぁ。

ともだちにシェアしよう!