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24.落着
翌日礼央は念の為仕事を休んで家に居てくれた。
事後報告のため大迫が訪れるのを待っていると、大迫はなんと昨日買いそびれたシュークリームを買ってきてくれた。
「うわ、嬉しい!ありがとう大迫」
「美耶さん、助かった時よりシュークリーム見た今のほうが嬉しそうな顔してません…?」
「そんな事無いって」
俺達はにこやかに談笑しつつテーブルに着いた。
「なんとか無事お助けできて良かったです」
「俺、本当に火事だと思って焦っちゃったよ。よくホテルに戻ってくれたね」
「美耶さまはラウンジの紅茶がお好きじゃないと仰っていたのにせっかくのシュークリームをラウンジで召し上がるのはおかしいと思いました」
「それだけで?」
「はい。そしたら駐車場には光様の車がありましたし、スマホの現在地を追って行ったらゴミ箱に端末が捨てられていたのでもうこれはもう黒だと思いまして」
すぐに応援を呼んで大迫は6階に部屋を取り、火災報知器を鳴らしたという経緯らしい。
「同じ失敗を繰り返すわけには参りませんので」
大迫は前回俺を助けるのが間に合わなかったのを未だに引きずっていたのだ。
「ありがとう」
「それで光様のことについてなのですが…自ら警察に行くとおっしゃってまして。いかがいたしましょう」
「え?警察行くって光が言ってるの?」
あの桐谷が自分から?嘘だろ?
「はい。ストーカー行為として禁止命令を出してもらうのであれば光様にも警察で聴聞を受けてもらわないといけませんが…どうやら昨日自宅に送り届けた様子を見ているとかなり反省なさってるようでした。昨日のお二人の様子をご覧になって美耶様が文月様と上手くいっていることをやっとお認めになったようで…」
大迫は言いにくそうだが、要するに警察まで行かなくても良いと思っているらしい。
実はそれは俺も同じ考えだった。
「昨日あいつと話して俺もなんとなくあいつの考えてることがわかったから警察まで行かなくてもいいかな」
礼央には昨日桐谷から聞いた話は全部話してあるものの心配そうだ。
「美耶さんいいの?」
「うん。あいつこの後シンガポールに飛ばされるって言ってたし。考えが甘いかな?俺のこと傷付けるつもりは無いって言ってたし…」
禁止令を出してもらったところであいつが海外に行くなら意味は無い。
しかもあいつの歪んだ性格は、厳格な父親の育て方にも原因がある。警察沙汰にしてしまったら余計にあの父親が桐谷を責めてあいつは更に病んでしまうだろう。
長年一緒に暮らしてきて全く情が湧かないわけでもない。
話を聞いた限りお互いすれ違ってしまったのは俺の方にも原因がありそうだったし、今回は警察には行かないことにした。
「発情促進剤の件はどうしましょう」
「そっちはさすがに見過ごせないな。今後他のΩに被害が広がったらいけないし」
上條の横領の件がどうなってるのかはわからないが、少なくとも発情促進剤の闇サイトの件はどうにかしないと。
「わかりました。では私の方で処理しておきます」
大迫が引き受けてくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
後から聞いた話によると、上條は闇サイトの転売の件で逮捕後起訴されたそうだ。
当然の報いだろう。
それから、俺をレイプした犯人は大迫が見つけ出してくれていた。
笠原敬三という男で、同性相手の強姦や強姦未遂で繰り返し逮捕されていた筋金入りの変質者だった。
この男は逮捕されることを何とも思っておらず、むしろ刑務所でも受刑者に対してレイプ騒ぎを起こしていたほどだ。
そのような男に対して被害を訴えても、こちらが警察で根掘り葉掘り当時の状況を聞かれて説明せねばならず精神的に負担であるというのが大迫と文月の考えだった。
実際、男性のレイプ被害者はこのような辱めーーセカンドレイプーーを受けるのを嫌ってこの男に犯されながら泣き寝入りしている者も多いと予想された。
「そこで提案なのですが、法で裁くのに限界のある人間に報復、といいますか…きっちり懲らしめてくれる人たちがいまして…非合法の組織なんですが。目には目をということで美耶様さえ良ければこの男をその組織に任せてしまおうかと思うんですが」
「え、何それそんなのあるの?」
「ある、と言ってはいけないものでして決して口外して頂きたくないのですが」
「勿論それはしないけど」
「それでは、そこに任せてよろしいですね?」
「うん、俺もあの時のこと警察で話したりしたくないし。そこに任せたらもうあの男は大人しくなる?」
「おそらくは」
どうやら大迫の話だと、その後レイプ魔の笠原はその組織によって後ろを犯されて被害者と同じ目にあった上去勢されたとのことだ。
まぁ…なんというか、自業自得だよね。
なんとなく俺もこれでもうあの直後の「一人で歩きたくない」という不安がすっかり取り除かれたような気がした。
これで俺が襲われた件に関しては全て片が付いたのだった。
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