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2章-10.手術当日 フクちゃんの誕生と術後の痛み

翌朝起きてまずシャワーを浴びるように言われた。この後しばらくシャワーが浴びられない。 昨日と同様にNSTで赤ちゃんの健康状態や子宮の状態チェックをし、点滴をする。 衣服は全て脱いで手術着を着て血栓防止の弾性ソックスを履いた。 ベッドで安静にしていると、礼央が来てくれた。 「美耶さんおはよう、昨日は良く眠れた?」 「おはよう。うん、まぁまぁかな。いつも通り」 実は早めにベッドに横にはなったものの、お腹の張りと胸焼けがずっと消えなくてあまりよく眠れなかった。 頼めば睡眠薬ももらえたようなので、飲めばよかったかな。 「大きなお腹見るのもこれで最後ですね」 礼央がお腹を撫でた。 「やっと会えるの嬉しいよね」 「楽しみすぎてドキドキします。美耶さん頑張ってね!」 手術の時間は午後いちの予定だけど緊急のオペが入ると時間がずれるとは言われていた。 結局緊急オペは入らずにそのまま開始となり看護師が呼びに来た。 礼央と一緒に手術室へ向かう。 そこで一旦別れて俺だけ手術室に入った。 胎児の状態を観察する機器を装着され、血圧計と心電図モニター、酸素飽和度のモニターも着けた。 その後手術台で丸くなって背中から脊椎麻酔の注射をしてもらう。 その後しばらく待って麻酔が効いているかを保冷剤でチェックされる。 足の先からお腹まで順に、冷たいかどうか聞かれる。 もう冷たさは感じなかった。 麻酔が効いてから尿道カテーテルを入れられた。 手術着も脱いで仰向けになり、身体にはタオルが掛けられた。 ドレープで仕切られてその後はお腹より下は見えなくなる。 その状態になってやっと手術着とメディカルキャップをかぶった礼央が呼ばれて中に入ってきた。 手を握ってくれて心強い。 礼央が静かに声を掛けてくる。 「具合悪くない?」 「うん、大丈夫」 医師から「じゃあ始めますよ」と声を掛けられた。 痛みは無いけど切ってるなという感覚はある。 結構グイグイ押されたり引っ張られる感触があって、先生が言った。 「もう少しで出ますよ~」 更にギュッとお腹を押される。これは結構苦しかった。 「はい!出ましたよ」 そう言って赤ちゃんを見せてくれた。 え?もう?!って思うくらい早かった。 たぶん始まって15分ほどしか経っていなかった。 「わ、紫色~…」 これがフクちゃんなんだ…!やっと会えた! まだ目も開いていない、小さなフクちゃん。かわいい… あれ?と思ったら産声が聞こえない。 大丈夫なのかな…と少し不安に思っていたら看護師さんに連れて行かれる間際に泣き声が聞こえてホッとした。 そういえば礼央の声も聞こえないなと思って顔を見たら無言で涙を流していた。 ええっ!と俺はびっくりしてしまった。 礼央のことだから、大騒ぎして喜ぶと思ったのに意外なことに静かに泣いている。 「礼央~、良かったね、フクちゃんに無事会えたね」 なんとなく俺のほうが気を遣って声を掛けたくらいだ。 俺は礼央の手をギュッと握った。 「美耶さん…ありがとう…僕うれしいです…」 「俺もうれしいよ」 すごく感動してるな、礼央。 涙を拭って礼央が言う。 「大丈夫ですか?どこも痛くないですか?」 「うん。麻酔してるから全然痛くなかったし」 「よかった…」 感動の対面は一瞬で終わった。 その後礼央はすぐ退出することになり、俺の方は子宮の後処理となる。 胎盤を取り出して縫合するのだが、出産よりこちらのほうが時間がかかった。 元々夜寝れなくて寝不足だったのもあるし、ホッとしたのもあってだんだん眠くなって起きてるのが辛いくらいだった。寝てもいいかよくわからなくてなんとか起きていた。 あと、麻酔のせいなのかちょっと気持ち悪いというか吐き気の手前みたいな状態が続いていた。 もう終わる?もう終わる?と思いながら耐えて、ようやく終了して病室へ戻った。 病室へ戻るとフットポンプを着けられる。これも血栓防止の為らしい。 しばらくは麻酔が効いているので下半身は動かないし、眠って良いと言われたから眠ることにした。 礼央には悪いんだけど、眠くてしかたなかったんだよね。 目が覚めると、激痛だった。 「い、いたたた…!」 「美耶さん?大丈夫?」 「やばい。これ、大丈夫じゃないかも…」 麻酔が切れて、傷の部分がすごく痛い。 以前ひどい怪我で入院したことがあったし、麻酔して手術するんだから大したこと無いだろうとたかを括っていたのだが…傷の痛みに加えて子宮が収縮する力が加わるのでものすごく痛い。 看護師さんが来て痛みの度合いを聞かれ、痛み止めの座薬を入れてくれて少し落ち着いた。 「こんなに痛いのか…舐めてた…」 俺は涙目でつぶやいた。礼央はひたすら心配そうに見ている。 しかし、彼にできることはあまりないのだ。 耐えるしか無い… 飲み物だけ売店で買ってきてもらい、面会時間が終わってしまう直前に礼央は帰っていった。 ここからは独りでの痛みとの戦いとなる。 産後は悪露(おろ)という子宮内の要らない物が排出されるため産褥ショーツというのを履いている。胎盤自体は手術で取り出してくれていたけどそれでもまだ出てくるものがあるのだ。 (女性の場合は膣から出るが、男性Ωはもちろんお尻からだ…) 産褥ショーツは股の部分が開くようになっていて、そこを開くと寝たままナプキンを看護師さんに替えてもらえるようになっていた。 まだ安静なので、自分でトイレに行けない間は看護師さん頼みだ。 しかも夜になって、悪露の出が悪いと言われて1時間置きに看護師が現れてお腹を押された。悪露を出すためなのだが、切れてるお腹を押されるのでこれがまた死ぬほど痛いのだ。 しかし俺は男なので、声を上げる訳にはいかないと思ってとにかく耐えた。 帝王切開のママたちはこれに耐えているのか… 痛み止めは決まった間隔をあけて飲まなければならず、時間を見計らって飲んでいた。 しかしうとうとしても痛みで目が覚め、よく眠れなかった。

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