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2章-9.偶然の再会と入院当日
結局自分の実家には出産後に報告することにして、来週はもう入院だというときに足りないものを買い足そうと思ってデパートのベビー用品売り場を見ていた。
すると急に声を掛けられた。
「お兄ちゃん!?」
「亜里沙じゃないか」
妹の亜里沙とご主人、そして赤ちゃんだった。
俺が実家と疎遠になっている間に出産を終えていたのだ。
「お兄ちゃん、そのお腹…おめでたなの!?」
「あ、ああ。そうなんだ。来週出産予定で…」
「うわー!うわー!よかったねぇ!よかった…ずっとどうしてるか気になっていたのよ」
「ごめん、また連絡もしないで…」
「仕方がないよ。お父さんから聞いてる。お母さんって本当にあんな性格だから…」
「うん。妊娠した報告にも行くか迷ってたんだけど」
亜里沙は手をぶんぶん振って言った。
「いい!いい!来なくていいよ。産後体調良くなってからで十分。それすらお母さんのことだからまた何言いだすかわからないし」
「うん。お宮参りくらいには挨拶に行くから」
「あ、それがいいね。私達も昨年宮参りに行ったから、今度実家に来たときによければ写真見てね」
「うん。直接言えてなかったけど出産おめでとう」
「ありがとう、あ!そうだこれお兄ちゃんから貰った靴下ちょうど今日履いているのよ」
出産したことは聞いていたからお祝いは送ってあった。
その中のベビーソックスを赤ちゃんが履いてくれていた。
「あ~ほんとだ。使ってくれてうれしいよ」
「あ!そうだ、お兄ちゃんの子は男の子?女の子?」
「男の子だよ」
「そっかぁ。楽しみだねえ」
立ち話もなんだからとデパート内のカフェに入り、少しだけ話しをした。しばらくして赤ちゃんが目を覚まして泣き出したところで店を出た。
「出産大変だと思うけど頑張ってね」
「うん、ありがとう」
「お母さんにはまだ黙っておくね」
亜里沙は手を振って去っていった。
思わぬ所で身内に会ってしまった。
でも亜里沙も喜んでくれて良かった。母親に話すのはまだ勇気がいるけれど、妹は相変わらず俺の心配をしてくれていた。
そしてとうとう妊娠38週目、入院当日を迎えた。
礼央の車で送ってもらってクリニックで降ろしてもらう。
ここから手術直前まではいったんお別れだ。
「美耶さん、リラックスして、あまり緊張しないでね」
「うん。まだ今日はそこまで緊張してないから大丈夫だよ」
「ああ~、僕のほうがなんかそわそわして落ち着かないです…」
「ちゃんと寝て明日立会よろしくね」
「はい。それじゃあ頑張って!フクちゃん、ママのために良い子にするんだよ~」
礼央がお腹を撫でた。
「それじゃあ行ってきます」
午後に入院し、注意事項や入院中の施設利用法などの説明を聞いてからお腹にベルトのようなものを巻かれてNST(ノンストレステスト)という検査を行った。赤ちゃんの心拍や、子宮の収縮度合いを計測して手術に耐えられるかチェックする。その後手術部位の剃毛が行われた。シャワーも浴びることができ、食事も夕食まで食べられて21時以降は絶飲食と言われた。
各種検査が終われば翌日まで特にすることもないためゆったりと過ごした。
入院するのはあの時大怪我をして以来だったけど、今回は出産という喜びに溢れた目的での入院だ。
手術はちょっと怖いが、大きなお腹で過ごすのも結構つらくて早く出てきて~って思うことも多くなってきていた。
何よりも早くフクちゃんの顔を見たいのだ。
最近はエコーも4Dで、顔の形までリアルに見れてしまうけどやはり生で早く顔を見たい。
(エコーの画像で既に礼央に似てる気がした)
お腹を撫でていたら、グニュグニュっとフクちゃんが動いた。
「お、元気だねえ。明日ママと会えるからね。楽しみだね」
明日にはもうこのお腹から出てしまうんだよな、と思って最後に大きなお腹の自分を撮影して礼央に送った。
“マタニティ最後の夜の美耶さんですね♡今すぐギュッとしたいですけど明日まで我慢します”
と、返事が来た。
俺は安心して明日に備えて早めに眠ることにした。
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