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2章-12.退院と命名

フクちゃんの健康状態も母体の健康状態も問題が無いということで、1ヶ月後に健診の予約を入れて退院となった。 入院期間は全部で8日間だった。 フクちゃんは初めて外気に触れることになる。 入院前用意して礼央に持ってきてもらうようお願いしていた退院グッズの中に自分の洋服やフクちゃんの退院用の服が入っていた。 俺は入院中ずっと足のむくみが治らず、これは帰る時にレインブーツかサンダルを持ってきてもらわないといつもの靴が履けないかもしれないと本気で悩んでいた。しかし、退院の2日前くらいから急激に腫れが治まって、スニーカーならひもを緩めれば履けるくらいに快復した。 「美耶さんがサンダル持ってきてって言うからどういうことかと思っちゃいましたよ」 「だって本当に足がひどかったんだよ。礼央も見ただろ?」 「見ました。写真撮っておけばよかったですね」 「もう、面白がって…」 俺はこの入院期間でだいぶ新生児の着替えや授乳にも慣れつつあったが、礼央はまだ全然で、オムツ替えもおぼつかなかった。これは帰ってから特訓だな。 沐浴も俺は実践練習させてもらったけど、礼央は帰宅して初めてフクちゃんを沐浴させることになる。できれば沐浴は礼央にやってもらいたいと思っていた。まだ身体が本調子じゃないからね。 「さ、できた!見てよこれ、すっごくかわいい!」 退院用のちょっとおしゃれな新生児服を着たフクちゃんはいつも以上に可愛らしく見えた。白いレースフリルの襟が赤ちゃんらしくて良いなと思って買ってあったものだ。そして、ふわふわな素材のおくるみで包めば外へ出る準備はオーケーだ。 支払いなどは礼央が全て済ませてくれてあった。 俺と礼央は病院の前で看護師さんに写真を撮ってもらって車に乗った。 チャイルドシートも初体験で、フクちゃんは不思議そうにキョロキョロしていた。 といってもまだあまり周りはよく見えていないんだけど。とりあえず乗せるのに成功し、泣かずに寝ていてくれてホッとした。俺としても久々の外の空気が気持ちよかった。 「やっとお家に帰るよ~フクちゃん。いや、(さく)ちゃん」 入院中にフクちゃんの正式名を決めて礼央に出生届は出してもらっていた。 「命名 文月 朔(ふづき さく)」 と書かれた可愛らしい縁付のプリントアウトを礼央は用意してくれた。 お七夜といって、赤ちゃんが産まれてから7日目に命名し、親族で祝うという習わしがある。本来は父方の祖父が主催して行われるものらしいが、俺は帝王切開だったからまだお七夜の晩は入院中だった。なので、礼央が形式だけお祝いしようということで名前のプリントアウトを病室に持ってきてくれていたのだ。 朔というのは新月の意味があり、この一文字で「ついたち」とも読む。フクちゃんには幸せな人生の一日目という意味でこの名を付けた。ここから満月までどんどん幸せが増えていくようにという願いが込もっている。 音的にフクちゃんとサクちゃんというのが近くて違和感が無いのもいいよねという話になったし、名字の文月との相性も良さそうでこれに決定した。 「ただいま~。なんだかすっごく久々に感じるな」 「ほーら朔ちゃん。ここがお家ですよ~」 入院中は色々全部身の回りのことをやってもらえて安心だったけど、やっぱり我が家が一番だなと思った。 ここから1週間礼央は休みを取ってくれていた。 ベビーベッドに朔ちゃんを寝かせる。さっきまで起きてたけど眠ってしまった。 「眠ってる顔、可愛いな…」 ほっぺをつんつんする。全然起きない。 「美耶さん、入院本当にお疲れ様でした」 「いやー、俺は痛みに耐えるのに必死で何もできなかったよ。これからが大変だよね」 「看護師さんもいないですしね。僕、なんでもしますので!」 「といってもまず色々覚えてもらわないとね。ミルクもまだ作ったことないだろ?」 「一応やり方は調べておきました!」 「ふふ、その実力を見せてもらうのを楽しみにしてるよ」 礼央は慣れないながらも積極的にミルクやオムツ替えをやってくれた。 お腹に貼る傷あとのケアテープの貼り替えも礼央にやってもらう。自分だとよれてしまってうまく貼れないのだ。 傷跡は痛みよりも現在は痒みがすごくて困っている。かきむしりたくなるけど、掻くと良くないと聞いてなるべく我慢していた。(でも結構掻いてる) 朔ちゃんのお世話は大人2人がかりならなんとかなりそうな感じだ。 夜中ぐっすり眠れないのはつらい。でも日中礼央がいるときに昼寝もさせてもらったり夜中の授乳を代わって貰ったりしているから今の所深刻な体調不良は無かった。 そうやって過ごしているうちにだんだん朔ちゃんの体重も増え、退院時より少しふっくらしてきた。

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