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2章-13.お宮参りと実家への報告
今日は朔ちゃんの1ヶ月健診だ。
1ヶ月健診では、赤ちゃんの発育状態のチェックと共に母体の身体の回復状況を診てもらう。
休みを取ってくれた礼央に車で送ってもらい、駐車場で待機してもらっている間に俺と朔ちゃんで診察に行く。
結構体重も増えたし大丈夫なはず。
産後あまり外に出ていなかったし、こうして朔ちゃんと2人きりで家の外にいるのって実は初めてなのだと気付いた。
乳児を連れての外出はミルクやオムツ、母子手帳、着替えやタオルなど荷物が多い。
俺は帝王切開にしては比較的産後の体調も悪くないが、赤ちゃんプラスこの大荷物って大変だな…
今回はトートバッグ型のマザーズバッグを持ってきているが、同じ月齢の赤ちゃん連れのママを見てリュックの方が両手があくから良いなと思った。
今度礼央に買ってきてもらおう。
順番に呼ばれて、朔ちゃんの体重や身長などを計測してもらう。
俺の方は血圧測定や検尿、子宮の状態のチェックなどを行ってもらう。
その後助産師さんとの面談で困っていることなど相談に乗って貰う時間があって終了となった。
荷物と一緒に朔ちゃんを抱っこして車に戻る。
玄関を出た俺の姿を見つけて礼央がすぐに駆けつけ、荷物と朔ちゃんをさっと引き受けてくれた。
「おかえり~!大丈夫でした?荷物多くて大変だよね」
「大丈夫だよ。これでも男だぞ」
「わかってるけど心配で…」
「大丈夫だって。俺も朔ちゃんも問題なし。やーっと1ヶ月ぶりにお湯に浸かれる!」
「そうなんですか?よかったですね!」
産後は子宮口が開いていて雑菌が入るかもしれないとのことで、健診まではシャワーのみで入浴はしないように指示されていたのだ。
シャワーもできなかった術後数日に比べればマシだけど、やっぱり日本人だしお風呂に浸かりたいよね。
こうして無事一ヶ月健診も終わり、数日後にお宮参りに行くことになった。
この機会に実家に出産の報告をすることになっていた。父に事前に連絡したらとても喜んでくれ、母にも伝えてくれると言っていた。妹にも無事出産したと連絡したところ、赤ちゃんを連れて実家で待っていてくれることになった。
俺達はお宮参り用にスーツを着用し、朔ちゃんも黒地に鷹柄の祝い着を用意した。抱っこした朔ちゃんと俺を一緒に祝い着で包むようにして俺の背中で紐を結べば出来上がりだ。
「こうやって着てたんだねこれ」
「朔ちゃんも美耶さんも似合ってるよ~」
「これ着るとお宮参りって感じするな」
実家近くの神社でお参りを済ませた。
その後祝い着は脱いで、朔ちゃんは中に着ているベビードレスの状態で実家を訪問した。
呼び鈴を鳴らすとまず妹が出迎えてくれる。
「お兄ちゃんいらっしゃい!わぁ、可愛い~!こんにちは、叔母さんだよ~。さ、入って入って」
ここに来るのは母と言い合いになって以来だ。今日は妹家族も居て大人数なのでリビングに通された。
俺は母と顔を合わせるので知らぬうちに緊張していたらしく礼央に背中を撫でられて自分の身体が強張っていたことに気付いた。
「美耶さん大丈夫?」
「あ、大丈夫。ちょっと緊張しただけ…」
「無理そうならやめていいんだよ」
「うん。でも今日は朔ちゃんもついてるから」
母と父が立って俺たちを迎え入れた。亜里沙はお茶を淹れにキッチンへ行った。
父がまず笑顔でお祝いの言葉をくれた。
「美耶、礼央くん。おめでとう」
母は俺と朔ちゃんをジロジロと眺めてやや不満げな顔をしていた。
それでも何か言わねばと思ったのかこう言った。
「おめでとう、出産お疲れ様」
「ありがとう、父さん母さん」
その後はしばらくお茶を飲みながら穏やかに近況報告などをした。
母はだんまりで、主に妹や父が妊娠中や出産のことなどを聞いてくれた。
そしてそろそろお暇しようかという時母が口を開いた。
「あのね、美耶。一応確認しておくけどその子、本当にあなたの子なの?」
「え…?」
その場の全員が母の発言に凍り付いた。
「だって、ねえ?うちが代々お世話になっているΩ専門の主治医があなたを不妊って診断してるのよ?それがこんな急に出産しましたって赤ん坊だけ見せられてもねぇ…」
母はさっきから俺と朔ちゃんを見ながらそんな事をずっと考えていたのか?
「妊娠中にでも膨らんだお腹を見せに来てくれてたら信じられるってものだけど…ね、あなた」
「美緒里さん、君は何が言いたいんだ?」
父は母のあまりの発言に困惑していた。
「お顔もたしかに礼央さんには似ているわ。でも、美耶の面影なんてどこにも無いみたい。大方礼央さんが他所でつくった子供を養子にしたって所じゃないの?」
すると亜里沙が怒りながら言った。
「お母さん!おかしな事言うのはやめてよ。私お兄ちゃんが臨月の時にデパートで会ったわよ。お腹膨らんでるところ、私はちゃんと見ましたからね」
「あなたは昔から美耶と仲が良いし口裏を合わせたんじゃないの」
するとここまでずっと黙って聞いていた礼央が静かに言った。
「もしかして、そのようなことを言われるかもしれないと今日はこれを用意してきました」
礼央は胸ポケットから封筒を取り出した。何だろう?俺も知らない物だ。
母はそれを受け取って封筒の中から書類を出して読んだ。
「これは…!」
母が目を見開いていると、横から父が覗き込んだ。俺からは見えない。なんなんだ?
父が謝った。
「礼央くん。こんなものまで用意させてしまって申し訳ない」
そして書類を礼央に戻したので俺がもらって目を通した。
「DNA鑑定!?え、こんなのいつの間に?」
「ごめんね美耶さん。入院中に勝手に手配しちゃってたんだ」
「嘘…全然知らなかった」
礼央は母に向かって言った。
「これで朔が僕たち2人の子だとご納得いただけましたよね?」
「で、でも!たしかに主治医がこの子は不妊だと…」
「そういった検査は必ずしも万能ではありません。とくにΩ性の妊娠出産には未知な部分も多い」
「そうは言っても…」
「美耶さんは甲種Ωですよね?これはまだ未掲載の論文になりますが、甲種Ωの排卵に必要な条件が色々あることがわかってきたという内容で…」
礼央はまた別の封筒を母に手渡した。
「元の恋人である桐谷さんではそれを満たせなかった可能性があります。一般の検査ではΩの甲種である場合の結果までは現時点では出せません。美耶さんは特殊な体質なだけで不妊ではないのです。僕も実は甲種で、それがどうやら美耶さんの排卵に有効だったようです」
「そんな…だって、そんなことが…」
「お読みいただければわかります。さあ、そろそろこれでお暇しますね。行きましょう美耶さん」
俺は朔ちゃんを抱っこして礼央と一緒に部屋を出た。
礼央は退出間際に振り返って言った。
「ああ、そういえばその論文は英文ですが大丈夫ですか?必要なら翻訳文をあとでお届けしますが」
「結構よ!」
母の金切り声が聞こえた。
俺は外に出てから礼央と顔を見合わせて笑った。
母に対して今までこのように言い返せた人がいなかったのですっとした。
「ありがとう。今日来られてよかった」
「どういたしまして」
礼央は俺の額にキスした。
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