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第3話

この日は突然、男の人に声を掛けられた。 「大丈夫?」 誰にも見つかったことがなかったから、誰かいるなんて思ってなかった。 「ぇ、ぁ…ご、ごめんなさいっ」 急いで立ち上がって、少しふらつきながらも逃げようとしたけど。 「待ってっ。」 手を捕まえられた。悪い人かどうかもわからないから、さっさと逃げようと思ったのに。 「ふらついてる。来て。」 「ぁ、やめてください…」 手を引っ張られたけど、抵抗した。男が泣きじゃくってるなんて、お見苦しいものを見せてしまったのは申し訳なかったけど。それとこれとは話が別。 「大丈夫だから。」 そう言われても、信用できないです。 心の声が顔に出てたのか、男の人はふっと笑って、耳元で囁いた。 「それとも、お姫様抱っこする方がいい?」 「よ、よくないですっ」 それはヤバい。お姫様抱っこなんてされたら、ますます逃げられなくなる。 まだ手を握られてる方がマシかなって思って、男の人についていった。 連れてこられたのは、自動販売機。 「んー、寒いし、あったかい飲み物が良いよね。何好き?珈琲とか?」 「ぁ、ぇっと、その、俺、お金持ってなくて。」 「いらないよ。奢り。」 「で、でも。」 「遠慮しないで。俺がほっとけなかっただけだから。」 この時の俺は、心細かったんだろうと思う。いつもはこんな簡単に、見知らぬ人に懐かないから。 「ココア、お願いします…。」 「ココアね。…お、あったかい。はい、どうぞ。」 「ぁ、ありがと、ございます。」 男の人は、珈琲を買っていた。俺は、近くのベンチに座らされた。その間、会話はなくて。 どうすれば良いかわからなくて、頂きます、って呟いてちびちびココアを飲んでいた。

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