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『遺伝』

新が産まれた時も、望が産まれた時も 誰も彼もが口を揃えて言った 「達郎(パパ)そっくりだね」 愛しい子ども達が大好きな達郎さんに似ていることに嫌な気はしない けれど、少し複雑な気持ちになることもあった 僕の遺伝子は2人のどこにも刻まれなかったのではないか、と 「うわぁ!パパ!すごいよ!雨がいっぱい!」 先週発生した台風の影響で、家の外は大荒れ 稀に見る大雨に朝から新は大興奮だ 飛ばされそうなものは外に置いていないし、遠くから何かが飛んできたとしても強化ガラスでできた窓では余程のことは起きないだろう、と窓に張り付いて外を見る新と大好きな()と共に外を見ている2人を止めることはしなかった 「すごい風なのに怖くないの?」 「怖くないよ!僕、ハニカムレッドだもん!」 最近ハマっているレンジャーになりきった新は変身ポーズを取って楽しそうだ そんな新を見て、望もケラケラ笑っている 2人の姿を微笑ましく見ていると、玄関が開く音が耳に入った いつもなら一目散に父親を出迎える2人は再び窓の外に夢中で そんな2人を邪魔するのは可哀想だったので、僕は1人玄関まで向かった 「お帰りなさい。濡れなかった?」 「ただいま。車だったから大丈夫だったけど、道がすごい混んでた」 「だろうね」 「あれ、2人は?」 「ふふ、大雨に夢中で窓に張り付いてる」 「なるほど」 靴を脱いだ達郎さんと一緒にリビングに歩みを進めたその時 眩い光と共に地響きのような轟音が響き渡った 「ひっ!」 「新!」 突然の雷に身がすくみ、体が震えだす 達郎さんに耳を塞ぐように抱きしめられても震えは止まらない 僕はこの世で1番、雷が嫌いだ 「大丈夫か?急に鳴ったな」 「、だい、じょうぶ。子ども達は、」 先程まで窓の外を見ていた子ども達の姿を思い出し、達郎さんの腕の中から恐る恐る抜け出す 「ああ、俺が見てくるよ」 膝が震えている僕の代わりに達郎さんが子ども達の元へ向かおうとしたその時、 「うわあああん」 「ふえええええっ」 家中に響き渡った泣き声に、僕らは一目散に駆け出した 初めて体験した雷に2人はしばらくフリーズしていたようで、ようやく出るようになった泣き声に僕らが駆けつけた時には一足遅かった 望はオムツをしていたので問題なかったが、新の足元はお漏らしでびしょびしょで 泣いて離れようとしない2人を宥めつつ急いで着替えと掃除を済ませた その後も雷の恐怖は2人の元からなかなか消え去ってくれなかった 食事もお風呂も睡眠も全て僕らにべったりで 少しでも離れようとすると泣き始めるため困ってしまった 雷を恐ろしく感じる気持ちはわかるので甘やかしてやったが、2人共に手が掛かるのが久しぶりで少しばかり疲れてしまった 「…ようやく寝た」 「…はは、」 突然聞こえた笑い声に達郎さんの方を見ると、彼は何がツボに入ったのかヒクヒク震えながら笑っていた 「ど、どうしたの」 「ふ、いや、怖がり方、秋葉そっくりで、」 「え?」 ようやく笑いを収めた達郎さんが続けた 「雷鳴った時の秋葉とおんなじリアクションするからさ、秋葉が3人に増えたみたいで笑っちゃった」 「ええ、」 「秋葉、子ども達居ないと2人と同じだよ。俺が離れようとしたら必死に腕掴んで離さないの。前なんてトイレすら行かせてくれなかったし」 「え、そうだっけ」 「そうそう。というより、2人の中身はまんま秋葉だよな。死ぬほどトマト好きなところとか、雷と海を怖がるところとか。言動もそっくりだし、流石親子だよ」 すぐ返事をしようとしたのに、思わず言葉に詰まってしまった 「秋葉、どうした?」 「…ううん、何でもない」 2人は確かに僕が腹を痛めて産んだ 誰に何を言われたってそれは変わらない 誰に似ていたって誰にも似ていなくなって、どちらでも良いじゃないか 新と望の親は僕と達郎さんで、僕と達郎さんの子どもは新と望なのだから それにちゃんと、僕らは繋がっていたのだから 先程感じた疲れなどどこかに消え去って 大好きな家族におやすみのキスを落として、温かい気持ちで僕も眠りについた とは言え、案の定子ども達はその日夜泣きして 久しぶりに夜中に叩き起こされてしまい、次の日ヘトヘトの僕らと違って子ども達はいつも通り元気だった ああ、子どもの体力って恐ろしい

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