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Happy Halloween
※達郎視点
望が産まれて、大学が夏休みに入った頃
望の顔を見せに実家に帰った際に跡を継ぐ気があるのならと親父に言われ、親父の子会社でインターン生のような立場で働き始めた
慣れない場所での慣れない仕事、親会社の御曹司であることを隠さなかったので僻まれる苦労もあったが元々興味があった設計の仕事を直に学べる楽しみがあった
親父の友人であり子会社の社長でもある西崎 さんには親父の後継者になるからには、と日々扱かれている
今日も西崎さんからの愛のムチを受け、疲れを感じながら帰路に着いた
「ただいま」
住み慣れてきた家の鍵を開け扉を開けると、その音が聞こえたようでリビングからバタバタと足音が近づいてくる
「おかえり!」
1歳半を過ぎた新は食欲が更に増し、動きも活発になった
望が居るから、と新に制限をさせて過ごさせることが嫌だと言う秋葉の意見に、新は月に数回保育園の一時預かりに通い始めた
自分以外の子どもを望しか知らない新にはいい刺激になったようで言葉数もぐんと増え、保育園で取り組んだことや友達の話をしてくれるようになった
俺の帰宅を迎え入れようと玄関まで駆けてきた新の姿を見て固まる
「おかえり。今日保育園で仮装してハロウィン集会をしたんだって。衣装をプレゼントして貰ったらすごい喜んで帰り道からずっとそれ着てるんだ」
新は保育園の作りだろうジャックオランタンの服と帽子を被り、衣装を見せようと俺の前でくるくると回っていた
「…ああ、可愛い」
思わず声が出て、新を抱き上げる
俺の腕の中で声を上げて笑う新に仕事の疲れが吹き飛ぶのを感じた
「新だけだと可哀想かと思って、望にも既製品だけど着せてみたんだ」
そう言われて入ったリビングでは望がお気に入りの玩具を舐めて遊んでいた
秋葉の言うようにロンパース型のジャックオランタンの服を着込んでいる
新と同様食いしん坊で母乳をよく飲む望の肉付きのいいムチムチした足が裾から覗き、新とはまた違う愛らしさを見せていた
「っ、かわいい…!」
スマホを取り出し、新と望の写真を撮った
2人が産まれてから俺のスマホ内のアルバムは2人の写真で埋め尽くされている
「とと!」
最近になってカメラを向けるとポーズを取れるようになった新に成長を感じつつ、思い出に残していると新が笑顔で言った
「といっくあといーと!」
目の前に差し出された両手と期待の込められたキラキラした瞳
慌ててスーツのポケットを探り、指先に当たった硬い感触にホッと胸を撫で下ろす
「ほら」
ハロウィンパッケージのラムネを渡すと、新は大喜びで秋葉に食べていいか伺っていた
「よく持ってたね」
「西崎さんに渡された。今理由がわかったわ」
「西崎さんもお父さんだもんね。経験あったのかも」
退社しようと荷物をまとめていたところ、ポケットに入れられたそれ
不思議に思い西崎さんの顔を伺うと、意味深な笑みを浮かべ食べないよう念を押されたのだった
「西崎さんにお礼しないとね」
秋葉に承諾を貰い嬉しそうにラムネを食べる新を見て、来年は父親である自分がその笑顔を引き出すのだとリベンジに燃えたのだった
Trick or Treat!
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