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No.54 うらぼんえ

墓参りを終えバス停に向かう途中、驟雨に景色が烟る。 駆け込んだ古民家の軒先に先客がいた。 背を向けた絽の着流しに見覚えがある。十年前に死んだ父の後ろ姿だ。 変わらない面影がこちらを振り向く。 「十年ぶりだな」 懐かしい声に視界が潤む。 ずっとこの人に恋していた。 父の十歳下の弟に。

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