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第1話

あの子の前では決して吸わないタバコをふかしながら、乱雑にホテルの休憩代にしては多すぎるお札をベッドのヘッドボートに置く彼。 ここはホテルでもなんでもなく俺の小さなアパートなんだけど、彼はホテルだろうが俺の自室だろうがコトが終われば一連の流れのようにシャワーを浴びて着替えたら、お金を置いてアパートを出る。 そんな彼の表情を見たくないから布団を被ったまま狸寝入りを決め込んでドアの閉まる音が聞こえるまで動かない。 がちゃり、とドアの閉まる音が聞こえて顔をあげると、案の定一万円札がクシャリと置かれていた。 … 彼と俺は大学の友人で、サークル仲間だ。 お互い認識をしたのはサークルに入ってからだったが、偶然にも高校は同じだったらしい。 同じクラスになったことがなく、部活も、仲の良いグループも違ったから知らなかったが。 卒アルを確認して間違いないと笑いあったのはいつの話だったか。 そんな縁もあり、サークル内でもニコイチと言われるほどの仲になった彼のことが好きになるのは自然の流れだったように思う。 彼はいわゆる美形で、対して俺は顔も性格も平々凡々で、不釣り合いだと言われてきたのは一度や二度ではない。 たくさんの悪意の刷り込みなのか、事実なのか、俺もそれは理解している。 それでも好きになってしまったもんは仕方がないが、彼とどうなりたいわけでもない。そう思っていた。 そんな関係が崩れたのは、あの子がサークルに入ってきたのがきっかけだった。 俺の高校の部活の後輩で、つまり、彼の高校の後輩。 明るくて、可愛くて、太陽のような後輩。 表情がコロコロとかわるあの子に、サークルのみんなも、もちろん彼も魅了された。 あの子が優しい彼を好きになるのも、また自然な流れだった。 お互い言わないまでも両思いなのは火を見るより明らかで、サークル仲間は彼らを温かく見守った。 不釣り合いだなんて言う人間はただのひとりもいなかった。 そんな大切な二人を同じように見守りたいのに見守れない自分に嫌気がさした俺は、アルバイトを言い訳にサークルから離れていった。 もともと、彼以外に特に仲の良い友人がいるわけではない俺を引き留める人間なんていない。 優しい彼はそんな俺を心配し、飲みに誘ってくれた。 気にかけてくれたことが嬉しかった俺は、彼が制するのも聞かずに酒のペースがすすみ、アルバイトを詰めっぱなしで疲れきっていたのもあり、すっかり酔っ払ってしまい、彼に思いの丈をぶつけてしまった。 すると彼は顔を歪めてしまった。 やってしまった。 彼の顔を見た瞬間、一気に酔いが醒めてしまった。 言葉を失っている彼にごめん、とお金だけ置いて逃げ帰ってしまった。 彼が呼び止めることも、追いかけてくることもなかった。

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