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義弟。 ver.光貴
一目見たときから、俺はこの人のものだって思った。
でも、紹介されたとき、この人は義弟だった。
でも、我慢できなかったから、抱きついてしまった。
そしたら、すごくいい匂いがして、落ち着いて、離れたくなくなって。
ぎゅうぅぅって、心臓を掴まれた気がした。
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「ぁ……」
嘉風 。俺の義弟。嘉風だ……!
高校からの帰り道。滅多に会わないのに。嬉しくって、おもいっきり抱きついた。
ふぁぁぁ嘉風の匂い……はなれたくないなぁ。
「光貴、帰り?」
「ん、……っ」
頭、撫でてくれた……!嘉風は、恋人、になってから、たくさん触ってくれる。それまでは、あんまり嘉風から触ってくれなかったけど。
……うれしい。だいすき。
だけど、時々不安。俺は、知ってる。
俺みたいに、心、っていうところに、嘉風1人しかいない人間は、異端だって。だって、周りの人間は、いつも、違う人の話をしてる。さっきまで違う人の話をしてたと思ったら、また違う人の話。誰かと喋ってたと思ったら、次は別の誰かと喋ってる。
周りのことは靄がかかったようにしか認識できなかったけど、人がそれぞれ違うことくらいはわかる。
俺、嘉風に会うまでのことは、全然覚えてない。家族も、よくわからない。そんな人がいるんだってくらい。一応母親は認識してた。よく俺の名前を呼んで、質問してたけど、俺は答えられなかった。
何が好き、とか、どう思う、とか、嘉風に会うまでは、わからなかった。
俺が本当に認識できるのは、嘉風だけ。嘉風だけが、はっきり見える。周りのぼんやりした景色の中、嘉風だけがちゃんと輪郭を持ってる。
でも、嘉風は普通の人間だから。俺みたいのとは違うから。きっと、今日相手してくれても、明日相手してくれるかはわかんない。その今日ですら、嘉風は俺以外ばかり見てる。
……羨ましいなぁ。
もっと、もっと、嘉風。嘉風にもっと見てほしい。もっとくっつきたい。
でも、俺は知ってる。恋人、っていうのはお互いに特別な人がなるもので。だけど、特別だけど、あんまりいっぱい触ってとか、今どこ何してるとかって求め過ぎると、鬱陶しがられて嫌われちゃうって知ってる。いっぱい触るのは、夜だけ、とか、なら良いみたいだし、今どこ何してるのって聞くのもたまになら良いみたいだけど、四六時中はNGなんだって。どこかで聞いて知ってる。
俺は昼間は、いっつもくっついてるから、夜は嘉風が良いって日じゃないとだめ。今どこ何してるの、も、俺は聞き始めたらずぅーっと聞いて止まらなそうだからだめ。
……寂しいなぁ。
ふと、初めてしてもらった時の、嘉風の言葉を思い出した。
光貴は俺のものだけど、俺は光貴のものでもあるんだよ?
……俺の、もの。
なんて、言葉……俺のなら、って、きっと嘉風に嫌われるくらいに欲しがってしまう。
朝、1番に嘉風にキスするのは、嘉風に忘れられてないか不安だから。
昼間、嘉風に抱きついているのは、嘉風に余所見しないで俺のこと見てほしいから。
夜、嘉風がいないからって形だけの睡眠すら取れなくなってるのは、俺がおかしいから。
寒い、よ、寒いよ、嘉風。早く、朝になって。嘉風に触りたい。嘉風の温もりが欲しい。嘉風に俺をあげたい。
嘉風、嘉風、嘉風、……よしか。
どうして、俺から離れるの、俺のことだけ見て、俺のことだけ触って、俺のことだけ考えて。
苦しい。今、ベッドに横たわってるだけなのに、嘉風の匂いがなくて、嫌。嘉風以外のものに触れてる自分が嫌。嘉風以外のものが視界にある自分が、嫌。
よしか、よしか、よしか。
耐えられない、よ。よしか。
もう、ベッドから起き上がってしまった。床を踏みしめる。その床の感触にさえ、気持ち悪くなって吐いた。嫌。嘉風どこ?嘉風に触りたい。嘉風の温もりじゃないの気持ち悪い。嘉風、嘉風。
「ぅ、ぉぇぇっ……ぅ、ぅぉぇぇ、」
泣いてる、と思う。もう全部吐き出した。気持ち悪い。ティッシュを手に取って口元を拭った。
片付けなきゃ。こんな汚いとこ見られたら嘉風に嫌われちゃう。
泣きながら掃除して、泣きながらお風呂に入った。自分の周り全部が気持ち悪くて、嘉風に包まれたくて。
でも嘉風に嫌われたらって思うと嘉風の部屋にも行けなくて。
お風呂場で、収まらない吐き気と戦ってた。
こんなに悲しくなるの、初めて。
目がさめると、朝だった。いつのまにかお風呂で寝てたみたい。窓の外は明るかった。
あかるい……嘉風に、会える。お風呂場を飛び出して、急いで服を着て嘉風に会いに行った。嘉風はまだ寝てた。そんなこと知らない。だってもう朝だから。嘉風のベッドに潜り込んで、嘉風に抱きついて、嘉風の温もりを感じて、嘉風の匂いを嗅ぐ。嘉風。嘉風。
早く起きて。早く俺を見て。嘉風。
さっきまでの吐き気は嘘みたいに消えていた。
「ん……ん、?光貴、おはよう。」
「よしか……おはよ……くしゅんっ」
「?!風邪か?!光貴、ほらちゃんと布団にくるまって。……体温計は……」
「よし、か……?だい、じょうぶ、だよ。」
たしかにすこし体変だけど、動けるから大丈夫だよ。
「いいから、ほら。腕あげて。そのままじっとね。」
嘉風が、近くの引き出しから体温計を取り出してくれた。
体温を測ってる間、布団ごと俺を包んでくれる嘉風。気持ちいい。
「よし、か……だいすきぃ……」
「俺も好きだよ、光貴。」
ピピッ
体温計が鳴って、嘉風に取られる。
「っ、9度あるぞお前。今日は寝ろ。ちょっと学校と義母さんに連絡してくる。あと下から色々持ってくる。光貴はそこで大人しく寝てること、今日は俺が1日看病するから。」
「ん、……わかった」
嘉風のベッドで寝れるの、幸せ……。
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「ん……」
「起きたか。光貴、気分はどう?苦しいとかある?」
「ん、……だい、じょうぶ……」
思い出したんだ。触れるのは無理でも、視界に嘉風を収める方法。
「きすまーく……つけて……寂しぃ……」
今、いつだっけ?夜?だったら嫌われちゃう、、撤回、しなきゃ……
頭ふわふわする、思考がまとまんない。
「ふぁっ、ぁ……」
チクッ、とした。多分首筋。
「もっと欲しい?」
「ぅん、もっと、もっと、ほし、ぃよ。」
良かった、今日は嘉風が良い日だ。だから夜でも大丈夫。
首筋から、胸のあたり、腕、お腹。
チクチク、吸われて、気持ちいい。嘉風に触られてる。嘉風から触ってくれてる、嬉しい。空っぽだった心に、嘉風が入ってくるのを感じる。嘉風、。
「光貴?光貴は、俺のもの、だよな?」
「ん、……ぅん、嘉風、の……」
「なら、俺に嘘はつかないでね?」
「ん……」
「光貴、夜に吐いたでしょ。しかもこっそり。」
「ん……っ、ぁ……」
今、胸の真ん中、ちょっと強くチクッてされた。ん、気持ちい……
「どうして、具合悪かったのに言わなかったの?」
ちがう、寂しかっただけ。
「よる、だから……あっちゃ、だめ……」
「誰が決めたの、そんなこと?」
「だれか、言ってた……こいびと、とくべつ。……でも、いつもくっつく、きらわれる。だから……お昼、くっつく、夜、だめ。嘉風、良いって言わないと、だめ。がまん、しな、きゃ……」
前だって、まだ、兄弟だった時、舐めたら、怒られた。恋人も、そういうのあるみたい。だから、我慢した、よ。
「バカ。」
「ぁぅっ、!」
お腹を、今度は、噛まれた。しかも結構強く。嬉しい。俺を、見てくれてるみたいで、嬉しい。もっと、触って?
「誰か、の言うことなんて信じないで。俺嫉妬しちゃう。俺、そんなルールを光貴に言った?言ってないでしょ?」
声が近くにきた。
鋭く睨みあげられて、ひゅぅと息が詰まった。
嘉風、が、俺の左腕を、目の前に翳す。
嘉風の、口が開いて、口の中で、唾が糸を引いて。
快感が、背筋を駆けた。
「ぁ……」
がぶり。
「いぅッ「ねぇ」
目が、限界まで見開かれていた。
「俺のものなんでしょ?俺だけ見ててよ、俺のいうことだけ聞いて、俺のいうことだけ信じて。じゃないと、俺嫉妬して何するかわかんない。」
そう、だ。
俺は、嘉風だけ、見てなきゃいけなかった、のに。嘉風の言うこと、聞けてなかった……。
今にも泣きそうな、衝撃だった。嘉風に嫌われたくなくて、嘉風に離れて欲しくなくて、頭ぐちゃぐちゃのまんま、俺のワガママが顔を出した。
「よし、か、よしか、ぁ……っ、。さび、しかった、ら、嘉風のとこ、行って、い?夜、寝れない、の……嘉風、無くて、気持ち悪い……」
「もちろん、いいよ。……もしかして、俺がいなかったから吐いたの?……いや、さすがにそれは自意識過剰かな。」
「ぅ、ぅん、そ、だよ……よしか、いなくて……嘉風以外触ってるの、見るの、きもちわるくて……はい、ちゃって……汚くて、嫌われるから、片付け、した、おふろ入った、けど、嘉風じゃないの触ってて、きもちわるくて、気、うしなって、……朝、なって、嘉風に会えるって、思って……」
「……ぁ、は、なにその筋金入り。かわいい。でもね、光貴。具合悪くなるほど俺が欲しいならちゃんと言って?
ね、光貴、今日から一緒に寝よう?明日、スマホに探索アプリ入れようね。それから、休み時間は電話かメールしよう。キスマ沢山つけてあげるから、授業中はそれ見て俺のこと思い出して?なんなら、匂い嗅げるように俺の私物なにか持ってく?服でもなんでもいいよ。」
「ぁ……ひゃぅっ、いた、、ぁ、ぜん、ぶ、ぜんぶ、してっ。だいすき、よしかっ、ぁっ、」
嬉しい。嘉風、が、俺のこと構ってくれる。一日中、構ってくれる。幸せ。
「光貴。堕ちてくれてありがとう。でも、ちゃんと、俺の愛も、受け止めて?」
うん、受け止める、よ。
嘉風、だいすき。一生、離れないで。
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