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果へ行く前に
男二人分の体重を受けて、ベッドが軋む。
日が沈んだとはいえ、まだ夏の名残は色濃く。風が通る部屋でも、ぴったりと抱き合っていれば、昼間のような暑さを感じる。
「あっ……やだ、もう……オレ……んぐっ」
ニールは背後からしっかりとした腕に抱かれ、ひたすら甘い声を響かせていた。
乱れた女のような、発情した猫のような。自分でもありえないと思うほど高く擦れた嬌声を、恥じる余裕はすでにない。
逃げる余裕すらもなく、指だけで硬く育てられる胸の先端を濡れた隻眼で見るしかなかった。悪戯な手を振り払うには、快感が強すぎる。嫌だと思うのはたしかだが、それと同じように与えられる刺激を受け容れている自分がいる。
「今更とりつくろうなよ。気持ちがいいんだろう? 真っ赤に腫らして、女の乳房よりもよほどそそられる」
耳に吹き込まれるのは、背後から抱く男の熱く滾った囁き。エフレムはニールの胸をなおも激しく弄りながら、卑猥な言葉を快感に熔けた脳へ流し込む。
「いう……な、あぁっ!」
つんと立った乳首をつままれ、かるく引っ張られる。緩やかな刺激が一瞬にして指すほどの強さになり、僅かに揺れていたニールの腰が浮き上がった。
「はっ……あ、あんっうあっ!」
すでに限界まで高められた中心が、解放を願って震える。
「まだ、はやい。すぐにいっちまったら、楽しめないだろう?」
熔けた思考が白く明滅した瞬間、腫れた中心を痛いほどの力で掴まれた。
「あっ、あ――だめっ! ひうっ、あっああああっ!」
悲鳴をあげて、ニールは頭を振った。射精を堰き止められ、苦しいほどの快感が腰に重く停滞する。
「はっ……な、んで? 出してないのに……オレ、いって」
汗とローションで湿った中心は、しっかりとエフレムの指が絡みついている。
なのに、射精した時と同等の快感を覚えいる。ニールは今だ続くエフレムの愛撫を止めるよう、中心へと手を伸ばした。
「なんだ? 物足りないってか?」
「ひが……うっ。んっんんっ」
はやく、解放されたい。
出せないまま続く愛撫は良すぎて、なにもかもを忘れてしまいそうになる。ただ、快楽を追うだけの獣になどなりたくなかった。
ニールは中心をにぎるエフレムの手をどかそうとやっきになるが、快感に支配された体は座っているだけでも限界だった。引きはがすどころか、もっと強請るように手を重ねる形になる。
「あっ、あた……てる?」
シーツを湿らすローションと先走りの不快感さに僅かに腰を上げたニールは、屹立したエフレムを背中で擦る羽目になる。背骨のラインをたどるように、ぬめった先端を肌に押しつければ、熱く爛れた息が唇から漏れる。
「なにが、おかしい。これで勃ってなけりゃ、不能だろうよ」
エフレムは低く笑って、胸を弄っていた左手をニールの太股へと滑らせた。
「ひっ、あっあああ――っ」
飲み込みきれなかった唾をこぼしながら、ニールは背中を反らせて歓喜の悲鳴を上げる。
「おいおい、股を触られただけでいっちまったのか?」
わずかに、精液がこぼれたのだろうか。中心を弄るエフレムの手付きが早く、激しくなっていく。
呼吸すら喘ぎ声に変わりそうで、ニールは強く唇を噛んだ。
とまらない。
意識は加速して、快感に熔けてゆく。
「もう……だめ、だからぁ」
これ以上はおかしくなる。おかしくなりたくない。快楽の虜になるなんて御免だ。そう、突っぱねたいのに、エフレムの手が僅かに中心から離れるだけで、なきたくなるほど切なくなる。
快感を受け容れ、いいように弄ばれるようになってもなお、折れないプライドが懇願をためらわせる。
いれてほしい。たったその一言で何もかもが終わるのだとしても、ニールからではいえない。
……だから。
「……っ、クソガキが」
たじろいだのは、エフレムだ。
ニールはひくつく後ろをシーツに押しつけながら、肩越しにエフレムを見る。吸われすぎて赤く腫れた唇で「エフレム」と名を呼ぶ。
「まだだ。まだ……我慢できるだろ? 狂うほど、感じればいい」
ニールの中心から手を離し、エフレムは腕だけの力でニールを向かい合うような形に引き寄せた。
「――んむっ」
間髪入れずに唇が重なり、息を継ぐのに合わせてニールはベッドに押し倒される。
「んあっ、あ、ああっ」
小さな波に、体を震わせた。
ニールはエフレムの背に手を回し、腰の熱を逃がすように大きく喘ぐ。快感がいつまでもいつまでも、感覚を狂わせている。
「あっ……また……オレ……くうっ、キスだけで……いっちゃ」
「まだ、いれてねぇんだ。勝手にいくなよ」
ぎゅと、痛いほどに掴まれる中心にニールはいやいやと首を振った。
「無理……だ。あ……あっ、とま……らない。エフレム、オレずっと……いっちゃ……て……んふっ」
絡めた舌を千切る勢いで唇を話したエフレムが、今度は触れるだけのキスで唇を啄む。
ちゅっとわざとらしく音を立て、赤く尖った胸に舌が絡みついた。
「あっ、やめ……やだっ」
目を閉じ、子供のように胸を吸うエフレムに、ニールは腰が重く痺れてゆくのを感じた。
視覚から犯されるようで……エフレムの愛撫を止めようと、栗色の髪に指を絡める。が、まったく力の入ってない指では、むしろ誘っているようで。上目づかいに見上げてくるエフレムの視線に、ニールはぞくぞくと背筋を反らした。
「やめ……もう、へんになる……からぁ」
「全部、見ててやるよ。テメェの情けねぇ姿をな」
ガリッと噛まれた瞬間、ニールは声もなく達した。中心はまだ戒められたまま、押しとどめられた欲は体をさかのぼり、脳をとろとろと溶かしていく。
「あっ……ああ、んっ、あ」
涙と唾液でぐしゃぐしゃになった顔を隠さず、ニールは震える足を立て、はりつめた自身をエフレムにこすりつける。
「んあっ、エフレム! もう……んあっ」
「くそっ、おかしくなりそうなのはこっちだよ」
ぐっと、腰をつかまれる。
待ちわびていた熱の兆しを最奥に感じ、ニールはエフレムの背に絡めた指を深く、抉るように肌に食い込ませた。
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