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すべての道はヒモに続く 1

「ただいまぁー」  家のドアを開けると同時にそう声をかけながら、靴を脱ぎ捨てて家へと入る。鍵を閉めるのさえもどかしい。 「おー」  キッチン部分を大股で通り抜けた時点で左手方向にあるリビング部分のソファーの向こうから「おかえり」代わりのお手振り。テレビの画面から目を離さないままで手もすぐに下げられてしまったけれど、それだけで機嫌の良さがわかる。  だから俺はお土産の店長特製ボロネーゼを手に、ソファーへと向かった。 「これ、もらったから良かったら……ん?」  お腹空いてたらどうぞと差し出そうとしたソファーの向こうに、俺は見慣れぬものを見る。  今朝、家を出た時にはなかったゲーム機。 「えっと、買ったんですか?」  さも元からあったもののように遊んでいるけれど、昨日までは確実に家に存在していなかったものだ。テレビ画面に映るポップなキャラと明るい音楽、そして鮮やかな色合いのコントローラーがとても楽しそうだ。  だからこそこんな存在感のあるものが突如家に登場したら驚きもするんだけど。 「ん。お前これ欲しいって言ってたろ? だから買った」 「うわ、顔がいい」  振り返ったその顔を見て、言いたかった言葉が一瞬で溶けてたった一言に塗り替えられる。耐え切れなかった今さらのセリフが飛び出して、思わず口を手で覆った。  この人の顔がいいと十分に知っていても、見るたび思ってしまうし言ってしまう。それぐらい顔がいい。  本来なら、お金を持っていないこの人がどうして新しいゲーム機を持っているのかを聞かねばならないのかもしれない。  でもどうせまたいつものように、俺のクレジットカードが登録してある俺のアカウントを使って通販サイトで買ったんだろう。そんなことは簡単に想像がつくから聞くまでもない。そしてそれぐらいのこと、この顔があればすべてが許される些細なことだ。 「なに、なんか文句ある?」 「ないですぅ……」  ソファーの背に手をかけ伸びあがるようにぐっと顔を寄せられ、その迫力に若干のけぞる。  晴れの日の満月のように輝く銀色の髪に少し甘く垂れた漆黒の瞳。透き通るような白い肌に、すっと通った鼻は高すぎもせず低すぎもせずまさに絶妙な塩梅。ちょっとだけ厚い唇はちらちら覗く白い歯と赤い舌がセクシーでぞくぞくしてしまう。  かといって女の人のような綺麗さではなく、どこか危うさを秘めた野生生物のしなやかな美貌とでもいうか。  まさに俺の理想を形にした男なのだ、このヒバリさんという人は。  美人は三日で飽きるなんて言うけれど、それは飽きる美人なだけだ。ヒバリさんの顔は毎日見続けたって飽きるわけがない。驚くほどずっといい。むしろ毎日驚いている。  給料日前だけど、こんな近くでこの顔が見られるならゲーム機なんて安いものだとさえ思う。俺が本当に欲しいと言ったかどうかなんて、本当に些細なことだ。 「睦月は本当に俺の顔が好きだな」  初見の勢いで見惚れる俺の様子に、呆れたようにヒバリさんが肩をすくめる。 「好きです、すごく」  そのセクシーな唇で呼ばれる自分の名前は、どこか蠱惑的に響いて腰元が疼いてしまう。  骨格がいいからだろうか、ヒバリさんは少し低めの声までいい。 「知ってる。それより俺腹減ったんだけど」  俺の熱烈なアピールを軽くかわして、ヒバリさんは空腹を訴える。  すでにゲームはほったらかしな辺り、俺が帰ってくるまでの暇つぶし程度の興味だったのかもしれない。 「あ、そうだった。これ……」 「じゃなくて」  ずっと手に持ったままだった袋を、ソファーを回り込んで目の前のテーブルに置いた途端、腕を引かれて体勢を崩す。 「わかってんだろ、俺の欲しいもの」  気づけばソファーの上に押し倒されていて、真上にヒバリさんの顔が現れた。  クール色の丸型蛍光灯の光を背負ったヒバリさんは神々しいほどかっこよくて、エロい。

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