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早起きはいっぱいの得 5

「いいね、一途なところがますます気に入った。僕はこれまで、欲しいと思ったものを手に入れられなかったことはあまりなくてね。振られるとワクワクするんだ」 「変態ですよそれ」 「君に関してはそうかもね」  思わず洩らしてしまった呟きにも余裕で微笑まれて、敵わない気しかしない。  ……この人には吸血鬼の弱点が効くのだろうか。  十字架は強い信仰心がないと意味がないとヒバリさんに教えてもらったけど、ニンニクはどうだろう? 銀は?  とはいえニンニクの匂いをさせて銀の食器でも持ち歩いたって、吸血鬼以外の人間にも敬遠されるだけだろう。どちらかというと俺の方がダメージを食らいそうだ。 「イエローカードセット一丁」  どうにか手はないだろうかと深々考え込みそうになった俺の思考を断ち切るように、大守さんが直接持ってきた皿をクライスさんの前に置いた。相変わらず見事なレア具合だ。  確か前は「クールガイセット」と呼んでいた気がするその呼び名の変わりよう。一体大守さんはどこまでなにを知っているのだろうか。 「俺の店で大人しくしている限りは俺の客だけど、店の中で揉め事起こしたら叩き出すんで」 「無論、諒解してますよ。ここを置いてこのステーキを食べられる場所はないですから」  珍しくもきっぱりと忠告する大守さんに、両手を上げて了承の意を示すクライスさん。  一瞬視線が交錯したけれど、大守さんはそれ以上はなにも言わずにキッチンに戻っていった。 「そういうことだから、情ではなく金銭で釣ろう。君にはそれだけの価値がある」  おどけたように肩をすくめたクライスさんがちろりと唇を舐めたのは、なにに対してか。 「一か月百万から提供すると約束するよ。交渉してくれるならもっと増やそう。だからお金に困ったらおいで。僕は気が長いんだ」  まったく懲りずに再度悪魔の提案を持ち掛け、にっこりと微笑んでから嬉しそうにナイフとフォークを手に取るクライスさん。  お客様のお食事は邪魔しませんのでごゆっくり、とその場を離れて裏に引っ込んでから大きく息を吐く。  ……ぶっちゃけヒバリさんをヒモでいさせるためのお金は、めちゃくちゃ魅力的だけど。  援助交際はまずい。いや、体液を提供するだけと考えたらいいのか? でも結局それは売春みたいなものだよな。  なによりあの人に力を与えるのはまずいだろう。あの人みたいな吸血鬼が朝から元気に動き回るようになるなんて危険すぎる。  世の中の平和のためと思えば、断り続けるのも惜しくない。  ヒバリさんにはいつか違う贅沢をしてもらおう。 「あ、そうだ。ヒバリさんが来るんだった」  何時という約束はしていないけど、後でと言っていたし来てくれるんだよな? それともお迎えだろうか?  ああ、もう。やっぱりちゃんと連絡先を聞いておくべきだった。そうしたら合間にイチャイチャしつつ予定を聞けたのに。  今さら言ったところで後悔先に立たずというよりか後悔役に立たずという感じだけど、それで思い出した。  連絡先を知っている人がいるじゃないか。 「あの、後でヒバリさんが来るかもしれないんですけど」  予定を聞いてもらえないでしょうか、むしろ電話番号を教えてもらえないでしょうかと覗いたキッチンで、大守さんがぶすっとした顔をしていた。どうやら厄介なお客さんであることをしっかりわかった上で複雑な思いをしているのが表情に出ている。  まあ、自分の料理を食べに来たお客さんは満足させて帰すというの信条にしているような人だし、クライスさんになにかしらあると気づいているのならそんな顔もするだろう。 「……来るなら、クライスと乱闘するのは店の外でやれって言っとけ」  どうも事情はなんとなく察しているような大守さんの物騒な言葉に、あ、はい、と頭を引っ込めた。  そうか。今ヒバリさんが来たら二人が顔を合わせるのか。それはまずい。  とはいえ俺になにかできるわけでもなく、ただただクライスさんが早く食べ終わりますようにと祈るしかなかった。  ネタバレ。クライスさんの匂いのせいで、美しき吸血鬼との獣の夜再来。  ……またのお越しをお待ちしております。

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