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 冬樹も冬人君も、片側の目を前髪で隠していた。  冬樹は、右目を。  そして冬人君は、左目。  なのに、今日の冬人君は右目を隠している。  ──つまり、冬樹と同じ方向に前髪を分けているんだ。  どうして、今になって気付いたのか。これだけ見つめていないと気付かないくらい、俺には見慣れている髪型だったからか?  すると、不意に。 「あの」  冬人君が、台本を閉じた。 「なにか、私の顔に付いていますか」  鋭い目付きで、冬人君は俺を睨む。  ……睨むことを意図しているのか、それともそういう目になってしまっただけなのかは、分からない。だが、さすがに焦燥感が募る。  ──まっずい……ッ!  さすがに、見すぎていたのだろう。冬人君は、不機嫌そうだ。  そりゃ、ジロジロと赤の他人に顔を見られたら、不愉快にもなるだろう。 「イヤ、悪い! なんだ、あれだ! ヤッパリ似てんなぁ……とか、思っちまってさ!」  どうも、調子が悪い。どんだけ俺は、冬樹が好きだったんだよ。  ……イヤ。【好き】ってのは、そういうのじゃない。  イヤイヤ。確かに俺は、キレイなら男だろうが女だろうが別にどっちでもいいバイセクシャルだが、冬樹はそういう対象じゃなかったぞ。現に、俺は冬樹と同居していた時に彼女がいた時期だってあったんだ。  イヤイヤイヤ! それはどうでもいい! 今、そんなのは些末なことだ。  冬樹にそっくりな人間を見て、俺はまだ動揺しているらしい。『バカみたいだ』とは思うが、ヤッパリ心の傷がデカくて、自分の中ではどうにもできていないんだ。 「火乃宮さん」 「へっ? ……じゃ、なくて。どうした?」  冬人君に呼ばれて、思わず間抜けな声で返事をしてしまう。  慌てて訂正し、冬人君と向き合った。  ……イカン、落ち着け、俺。相手は、冬樹じゃないんだぞ。  冬人君は俺を睨んだまま、冬樹とは少し違う声で喋る。 「私と兄は、そんなに似ていますか」 「は?」  冬樹よりも少し、高い声で。だがどこか不機嫌そうに、冬人君はそう言う。台本を膝の上に置き、その台本の上に自分の両手を拳にして置きながら。  冬人君は不機嫌そうな顔のまま、そんなことを訊いてきたのだ。 「兄の葬儀の時も、言っていましたよね。そんなに、私は兄に似ていますか」 「お、おう。似てる、と思うぞ」 「そうですか」  相槌を打った後、冬人君は視線を俺から外す。  ……どっちだ? 今のは、素直にそう答えて大丈夫なやつだったのか?   死んだ兄貴に似ているのは、ヤッパリ思い出しちまって悲しいのかもしれない。だが逆に、思い出のよすがに感じられて、嬉しいモンなのか……?  冬人君の反応では、イマイチどういう真意なのかが分からない。  訊き返すべきか悩んだ、その間に。 「──セッティングできました! 準備お願いします!」  俺や冬人君や、他の出演者が呼ばれた。  冬人君は立ち上がって、自分のカバンに台本を戻す。 「あっ、オイ、冬人君」 「はい」  すぐに行ってしまいそうな冬人君に、思わず後ろから声をかける。  冬人君は相変わらず不機嫌そうな顔で、俺を振り返った。 「今日の冬人君が演じるのは、ヒーローみたいな優しい役だ。だからもう少し、柔らかい表情。……な?」 「やわ、らかい。……はい、分かりました」  余計に、眉間のシワが深くなった気がする。それでも冬人君は、俺に前向きな返事をした。  ……コレは大丈夫、なのか?  一抹の不安を抱えながらも、俺は冬人君の後を追って、撮影現場に向かった。

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