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冬人の背中を見ているしかできない自分が、腹立たしい。
そう自覚すると同時に、思わずハッとする。
……『腹立たしい』って、なんだよ? なんで、いちいち腹なんか立てるんだ?
そもそも、頼ってもらえないのは全部俺の自業自得だろ。
それなのに、まさか……隠しごとをされているのが腹立たしいのか? だとしたら……バカかよ、俺は。そんなこと思う権利、俺にはないだろ。
……だが、頭の片隅では余計な言葉がチラつく。
──少しくらい、頼ってくれてもいいじゃねぇかよ。という、なんとも甘ったれた言葉が。
俺が、冬樹の分もアイツを支えないといけない。だから、そう。このやるせなさは、冬樹のためだ。
誰に言うでもない後悔やら苛立ちやらを抱えていると視界に、あるものが映った。冬人の近くに、ふたりの男が近寄った光景だ。
どちらも、俺たちと同じく撮影をするモデルだった。もしかしたらあのふたりも、冬人の不調に気付いたんだろうか。
冬人に声をかけているようだが、内容までは聞こえない。分かるのは『おそらく冬人は素っ気無く対応しているんだろうな』ってことだけ。
そこでようやく、俺はある【可能性】に気付けた。
──別に俺じゃなくても、もしかしたら他の奴に相談しているかもしれないよな。……という、そんな当然すぎる【可能性】に。
俺はカメラマンがスタンバイしている撮影場所に移動し、ため息を飲み込む。
……そうだ。気を揉む必要がどこにある。俺がイヤなら、自分のマネージャーや他の先輩に話せばいい。この現場にいるのは、俺だけじゃないんだ。冬人の近くにいるのは、俺だけじゃないんだから……。
それでいい、はずなのに……っ。
──クソッ! 集中しろよ、俺ッ!
仕事に対する姿勢の話をしておいてこの調子では、冬人のことを言えない。こんなに取り乱して、俺はなにをやっているのだろう。
「火乃宮さん。その険しい表情、いいですね~!」
それでも、今日の撮影コンセプトのおかげか……偶然にも、カメラマンからはオーケーがもらえている。
ここ最近、俺はきちんと仕事ができているのだろうか。なんだか、情けない気持ちになってきたぞ。……それもこれも、俺が自爆して空回って失態と失敗を繰り返してるからなのだが。
そう考えて、ようやく視界が開けた気がする。
……そうだ。なにを悩んでいたんだ、俺は。
俺が失敗ばかりで、冬人にとって最低な男なのは今に始まったことじゃないだろう。
なら、尋問するなりすればいい。
初めから接し方を間違えていたのだから、これ以上落ちる評価はないだろう。
──撮影を早く終わらせて、冬人を追い掛けよう。
そんな斜め上に逸れてしまったような気持ちで、俺はカメラに向かい、プロの意地を見せつけた。
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