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外に出ていたはずの冬人が、気付けば現場に戻ってきている。
その表情は、どうも【気分転換をしてきた】ようなものには見えない。
「なんて顔してるんだよ、アイツ……っ」
思わずそう呟いてしまうくらいには、暗い顔だった。
気晴らしに失敗したのか、苦虫を噛み潰したような……とにもかくにも、酷い表情だ。
アイツの兄貴──冬樹はいつも、笑顔だった。それなのに、俺はその弟ひとり笑顔にできないのか。
……って、あぁ、クソッ! またか! なんなんだよ、このハッキリしない感情は!
撮影を終えて、カメラマンに頭を下げる。それからすぐに、俺は冬人に近寄った。
俺の撮影が終わってすぐ、まさか自分のところに来ると思っていなかったのだろう。冬人が俺から逃げるのに、少しの間が空いた。
「冬人、ちょっと待て」
「……っ」
小さなコンテナに腰掛けていた冬人が立ち上がる前に、俺はすぐさま冬人の目の前に立つ。
「頼むよ、冬人。なにがあったのか、教えてくれないか。お前さん、最近ずっと変だぞ」
冬人は、視線を逸らす。
他のスタッフや撮影されるモデルは、自分たちの準備で忙しく、俺と冬人には見向きもしない。
「なにも、ないです」
「冬人ッ」
もし仮に、誰かに見られていたとして。それで周りの人にどう思われようが、そんなことは関係ない。
──俺はただ、冬人が心配なんだ。
──冬樹の代わりに、見ていないといけないのだから。
「すみません、もう一度外に行ってきます」
「待てって、冬人!」
冬人は立ち上がり、すり抜けるように俺から逃げようとした。
ついさっきまで、外にいたばかりなのに……そんなに、俺から逃げたいのかよ。
俺はすかさず、冬人を追い掛ける。
冬人はそれに気付いたのか、少し駆け足気味で外に向かう。
そこで、ふと。妙な違和感に気付いた。
──あの鉄パイプ、コンテナからあんなにはみ出していたっけか?
倉庫の出入り口付近に積み重なっているコンテナ。
その上には束になった鉄パイプが置いてある。それは、倉庫に入った時から気付いていた。
だが、あんなに。
──まるで【今から落ちてきそうなほど】はみ出して……っ?
「──冬人ッ!」
「──っ!」
思わず、冬人の名前を叫ぶ。
なぜなら……。
──まるで【誰かが押したかのように】鉄パイプが落下してきたのだから。
冬人目掛けて落下してくる鉄パイプに、俺はいち早く気付く。気付くと同時に、俺は冬人の腕を思い切り掴んだ。
そのまま、力任せに冬人を引っ張った。
突然後ろに引っ張られた冬人は、抵抗する間も無く俺の胸板に引き寄せられる。
俺は冬人を抱き締めるようにして、鉄パイプの落下地点から引き離した。
それと同時に。
──けたたましい音が、倉庫内に響き渡った。
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