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落下する際に、ヒモがほどけたのだろう。
バラバラになった鉄パイプが、つんざくような音を発しながら、地面に落下した。
落下の衝撃で、倉庫内が地響きのように震える。
「なっ、なにっ!」
「今の音、どこからだ!」
「怪我人はいないか!」
騒音に気付いたスタッフが、慌ててこちらに駆け寄ってきた。
……幸い、俺と冬人以外に出入り口付近に立つ人はいない。そして、俺と冬人も無事だ。
スタッフの声かけに応じるよりも先に、俺は腕の中にいる冬人へ声をかける。
「冬人、ケガはないかッ!」
──冬人は無事だ。頭では分かっていても、確認しないと気が済まない。
冬人はと言うと、俺の腕の中で落下してきた鉄パイプを眺めていた。
しかし、事態を把握したのだろう。
「ない、です……っ」
驚きのあまり、声を震わせながらそう答えてくれた。……『なにが起こったのか分からない』といった顔だ。腕の中の冬人は、小さく震えている。
「そうか……ッ。……良かった……ッ」
思わず、震える冬人の体を力いっぱい抱き締めた。
すると、腕の中で冬人が身をよじる。
「平兵衛さ──じゃなくて、火乃宮さん、あの……」
「なんだ、冬人」
「少し、近すぎると思います」
冷静さを取り戻したかのような冬人の声に、俺は状況を確認した。
腕の中にいる冬人は、顔が近い。
「他の人に、見られる」
ポツリと呟いた声が、俺にだけは聞こえてしまうほどに。
現状と、冬人との距離。そのふたつに気付くと同時に、突然。
──俺の心臓が、早鐘を打ち始めた。
痛いくらいにドクドクと鼓動を打ち付けられているのが、胸に手を当てなくても分かる。
違う! 断じて違うぞ! この緊張は、冬人を抱き締めているからじゃない! 鉄パイプの落下に対してだ!
落ち着け、バカか俺は! 相手は冬樹の弟だぞ! 親友の弟だ!
「離して、ほしい。……です」
俯いた冬人は、そう呟く。
「わっ、悪いっ!」
腕から慌てて冬人を解放すると、冬人はすぐさま俺から離れた。
いくら咄嗟のこととはいえ、冬人からするとレイプしてきた男に抱き締められた状況だ。すぐに離れるのは賢明な判断だし、当然、怖いだろう。
「お二人共、大丈夫ですか!」
「怪我はありませんかっ?」
次第に、モデル仲間たちも集まってくる。
「あ、あぁ。俺も冬人も無事だ。……なっ、冬人?」
「……はい」
そう答えると、周りにいたスタッフたちはザワザワと騒ぎ始めた。
「ちゃんと撮影前に現場を確認したんじゃなかったのか!」
「確認しましたよ!」
「じゃあ、どうしてこんなことが起きたんだ!」
騒いだところで、原因は分からない。結論の出ない話し合いは早々に打ち止めとなり、スタッフ総出で、散らばった鉄パイプの片付けをし始めた。
結局、なにが原因で落ちてきたのかは分からないまま。
……ただ、一人。
「……っ」
冬人だけは青白い顔をしながら、その様子を眺め続けていた。
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