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鉄パイプが落ちてきた、その翌日。
つまりは、俺と冬人が一緒に撮影した再現映像が放送される日。
俺は午前の仕事が終わった後、打ち合わせのために事務所へ来ていた。
……ちなみに、昨日。俺は別の仕事があったので、撮影を終えてすぐに、あの倉庫を離れた。
本心を言ってしまうと、終始青白い顔をしていた冬人から離れたくはなかったが……。
……イヤ、違う。違うぞ。冬樹の弟になにかあったらイヤだからな。他意はない。ないはずだ。
我ながら、誰に対してなのか。そもそも、なにを目的とした言葉なのかも分からないことを頭の中で繰り返しながら、事務所の裏口に向かう。
別に表から入ってもいいのだが、マネージャーと約束していた時間ギリギリなんだ。だから、裏口の方が近い。
俺は小走りで、事務所に向かう。
「あのマネージャー、遅れると嫌味ったらしくどやしてくるからなぁ……っ」
今のマネージャーとは、俺が高校生の時からの付き合いだ。そのおかげと言うか、そのせいでと言うか……マネージャーはとにかく、俺に対してやけに厳しい。
そのくせ、冬樹が死んだ時には一週間休みを与えるくらいには過保護と言うか、甘いと言うか……。
そんなことを考えながら事務所の裏口に近付くと、人影があることに気付いた。
よく見ると、三人いるようだ。
そのうちの一人は、間違いもしない……。
「あれは……冬人、だよな? なら、あとの二人は……?」
冬人と、男が二人立っている。
その男二人には、見覚えがあった。なぜなら、昨日一緒に撮影していたモデル仲間だからだ。
それでいて、あの二人は冬樹の同期だった。
片方は指輪やネックレス、ジャラジャラとした装飾品を好んで身に着けたハデなタイプ。
もう一人は対照的に、眼鏡をかけて落ち着いた印象だった、
「なんであの二人と、冬人が一緒にいるんだ?」
俺は物陰に隠れて、三人に近寄る。
……イヤ、なんで俺は隠れてるんだ? 別にやましいことなんかないんだから、堂々と通ってもいいだろ。
と言うか、ここでモタモタしてるとマネージャーにどやされ──。
「──ぼくたちの忠告ッ、何回無視するつもりだよッ、お前ッ!」
不意に。不穏な言葉が、聞こえてきた。
俺は素早く、身を隠す。
──『忠告』だと?
聞こえてきた言葉と、雰囲気。堂々と通りにくくなってしまった現場に向かって、俺はそっと視線を向ける。
冬人の表情は、威嚇するような鋭い目付きだ。先輩が相手で、尚且つ怒鳴られたばかりだというふうには、微塵も見えない。
「忠告とは、なんのことですか」
「だからッ! 一週間以上前からずっと言ってるだろッ! 『事務所を辞めろ』ってなッ!」
相手の二人は激高している様子だが、冬人は極めて冷静だ。その態度はまるで、火に油を注いでいるようにも見える。
そして、冬人は……。
「──会社からいただいた衣装で撮影中、私の私服にペンキをかけたり、横を通ったらわざと聞こえるように陰口を言ったり、先日の現場で鉄パイプを落とすのが、あなたたちの言う『忠告』ですか?」
どこか俺にも覚えのあることばかり、つらつらと口にした。
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