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──今、冬人はなんて言った?
冬人の言葉に、冬樹の同期二人がさらに憤慨する。
「見せ付けるように冬樹の服なんか着てきやがってッ、気持ち悪いんだよこのブラコンッ!」
「冬樹が死んで、それを利用してなんの努力もしないで、テレビに映るんだもんな。……確か、放送は今日だったっけ?」
片方は感情のままに。もう片方は平静さを装って、冬人を責めている。
明らかに気分を害しているが、冬人は二人のように取り乱すことなく、淡々と反論した。
「なんとでも言ってください。ですが、あなたたちがなんと言おうと、私はこの仕事を辞めません。辞めるべき理由になりません」
「てめぇ……ッ!」
体をブルブルと震わせて、片方の男が鋭い眼光で冬人を睨む。
──なんだ? なにが起こっている?
『陰口』って、なんのことだ? その前にも、冬人はなんて……ッ?
冬人は『私服にペンキ』と言っていた。……それじゃあ、あの日。
──クリーニングに出したのは【ペンキで汚れた冬樹の服】だったのか?
今、片方の男が『一週間以上前から』と言っていた。丁度、冬人にクリーニング屋の場所を訊かれた時期と重なる。
それに『鉄パイプを落とす』って……っ。
──それは、この前の……っ?
「まさか……冬人がここ最近、ずっと暗い顔だったのは……ッ」
今までの冬人の表情が、行動が……一気に、繋がっていく。
冬人の表情が暗かったのは、俺が主原因ではなかった。冬人は俺に何度も、あの夜のことを『気にしていない』と言っていたが、それは本当だったのだ。
「お前さ、死んだ兄貴の知名度借りて、努力もなしにいきなり売れて……それで、嬉しいわけ?」
その問いに対し、冬人は男を睨み付ける。
「そんなこと、あなたたちに関係があるとは思えないのだが」
「なんだと……ッ!」
どこまでも冷徹な冬人は、二人を鋭く睨み続けた。
そして、冬人は……。
「──兄の知名度を私はよく知っているが、あなたたちの名前を私は知らない。昨日の撮影で、あなたたちは【人気のモデル】ではなく【今後に期待されるモデル】枠だった。だから、あなたたちは知名度なんてものに固執するのだろう」
──とんでもない爆弾発言を、ふたりにぶつけた。
「アイツ、バカか……ッ!」
この状況で、相手の怒りを助長するような発言はどう考えても得策ではない。
だがそんなこと、冬人には分からないのだろう。
「『忠告』とあなたたちは言うが、私には『妬み』にしか聞こえない。そんなものにいちいち取り合っていられるほど、この仕事は甘くないと思うが」
「てめぇッ! 冬樹なんて、顔がいいだけの頭の中ピーマン男だろうが! 少し売れてたからって、調子に乗るなよッ!」
ピクリ、と。冬人の手が小さく、震えた気がした。
冬人が相手の地雷を踏み抜くと、相手も地雷を踏みぬこうと反論する。
「あんな見てくれだけのバカ男、偉い奴に媚びへつらってただけだろ」
「いっそ体でも差し出して、真剣に媚びを売っていたんじゃないかい?」
「アッハハッ! それ、ありえるな! あのバカならやってそうだ!」
冬樹のことをバカにされて、冬人が冷静でいられるはずがない。
「撤回しろ……ッ」
「するわけねーだろバカが!」
緊迫した空気が張り詰める中、とうとう痺れを切らしたのか。
ハデな見た目の男が、ニタリと笑った。
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