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 不敵に笑ったハデな男が、静かに言葉を紡ぐ。 「兄貴が顔だけの男なら、テメェはベラベラ喋る頭だけの男にしてやろうか?」 「……はっ?」 「オイッ!」  ハデな見た目の男がそう合図すると、眼鏡の男が突然……。  ──冬人の後ろに、回り込んだ。  そのまま冬人を羽交い絞めすると、眼鏡の男は冬人が逃げられないよう固定したまま、ハデな男の前に立たせる。  ──まさか。 「そのお高く留まった綺麗な顔ッ、ボッコボコにしてやんよッ!」  ゴツい指輪をいくつも付けた指を拳にして、ハデな男が冬人目掛けて振りかかろうとした。  ──そこからは。 「──冬人ッ!」  ──反射だった。  俺がそう叫んですぐ、事務所の裏口に『ゴッ!』という鈍い音が響く。  そして、それと同時に……。 「──痛……ッ」  頬に、熱い痛み。  間抜けな顔をしたハデな男と、同じく間抜けな顔をした眼鏡の男。  そして、片方だけ覗いている瞳を丸くして……。 「──平兵衛さんッ!」  冬人が、そう叫んだ。  理解したのは、おそらくこの場にいる【四人】の中で。  ──【俺】が、最後だっただろう。  俺は今、目の前に立つハデな男に殴られた。つまり……。  ──冬人が危険な目に遭うと察した瞬間、俺は冬人を庇うようにハデな見た目の男と冬人の間に割って入ったらしい。  ……『らしい』というのは、さっきも言った通りほとんど【反射】だったからだ。考えるよりも先に、ってやつだな。 「ひ、火乃宮さん……っ」 「オイッ、これってヤバくないかッ!」  殴られたのが、もしも冬人だったならば。おそらく冬人は、誰にも事情を説明しないだろう。だが、相手が【火乃宮平兵衛】となると、話が変わってくるのだ。  青ざめた顔をする眼鏡の男が、冬人を解放する。眼鏡の男はそのまま、ハデな男に駆け寄った。  解放されたというのに、冬人の顔は青白い。顔面蒼白になり、まるで絶望したかのような顔で俺を見ている。  ……違う。そうじゃないんだ。  俺は、お前さんのそんな顔が見たいんじゃないんだよ……っ。  殴られた俺と、青白い顔をした冬人と、先輩を殴ってしまったことに怯える二人。  そんな気まずい空気をぶち壊してくれたのは……。 「──火乃宮、ここにいるのか~?」  俺の、マネージャーだった。  * * *  ──俺は、急いでいた。  なりふり構わず、とにかく身を隠すことができるのであれば、どこだっていい。  とにかく、俺は急いでいたのだ。  慌てて事務所を駆け回る俺はいつの間にか、振り出しに戻っていた。  ……そう。事務所の裏口だ。 「……ヨシ。ここまで来れば、一先ずは見つからないだろう……ッ」  角を曲がり、裏口へ身を隠そうとする。  すると、あるなんて予想もしていなかった人影を見つけた。 「うおッ! ……って、なんだ冬人か」  人影の正体は、冬人だ。そこには、蹲った冬人が一人で座っていた。  ……あれから、すぐのことだ。 『──きみたち、詳しく話を聞かせてもらおうか』  俺に厳しくも過保護なマネージャーがブチ切れて、二人は事務所のお偉いさんのところへ連行。  そして、俺はと言うと……。 「隣、座るぞ。ちょっと匿ってくれ」  絶賛、マネージャーから逃げている最中だったりする。

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