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 リビングに向かうと、想定通り冬人がいた。 「あっ、平兵衛さ──ん?」  テーブルにコップを置きながら、イスに座ってテレビを見ていた冬人が振り返る。  そして即座に、眉間のシワを深くした。  それも当然で……。 「よォ、ブラコン君」  俺がなにも言わずにガラの悪い男を連れて帰って来たのだから、驚いているのだろう。  一応、冬樹の葬式の時に会ってはいるのだが……あの時の龍介はもう少し雰囲気を良くしていたから、冬人が気付かないのもムリはない。そもそも、たった一回会っただけで覚えられるとも思えないしな。 「……火乃宮さんの知り合いですか」  どういう関係なのか分からないからか、冬人は仕事モードの呼び方に切り替えて、龍介を見る。 「冬人、コイツは俺の幼馴染で、水野龍介だ。それで、龍介。この子が──」 「あ~、紹介とかいいわ。こっちは仲良くする気とかサラサラねェし」  そう言って、龍介は冬人の斜め向かいのイスに腰掛けた。  龍介の態度や様子を見て、冬人の警戒心が高まる。 「月島冬人です」 「だァから! そういうのはいいっつゥの!」  警戒しているのは龍介も同じだ。  長年一緒にいたから、今の龍介の悪態の吐き方が【初対面の人にどう接していいのか分からないから、嘗められないようにしよう】という方針だというのが分かる。  すると冬人は立ち上がって、キッチンの方へ向かった。どうやら、俺と龍介に茶を出そうとしてくれているらしい。  そしてそんな気遣いのできるところに、簡単にときめいている自分が情けない……ッ! 「どうぞ」  冬人はそう言い、龍介に茶を出す。  茶を受け取ったものの、龍介はフンと鼻を鳴らすだけで、礼は言わない。 「ありがとな、冬人」  冬人から茶を受け取り、龍介の分も礼を言う。しかし冬人はコクリと頷いただけで、依然として龍介を警戒しているようだ。  俺は龍介の隣──冬人の正面に座った。 「それで? こんな朝からなにしに来たんだよ?」  まだ俺は、龍介の目的を聞いていない。俺は頬杖をついて、隣に座る龍介を見た。  龍介はコップのフチをグリグリと指で押すように撫でながら、俺を見てニヤリと笑う。 「平兵衛サマよォ? まだ葬式の時の礼、ボクにしてないよなァ? ……おっと。『忘れてた』とは言わせねェからなァ?」  『葬式の時の礼』とは、冬樹の葬式の時に龍介が俺を支えてくれていたことを言っているのだろう。  ……なんで、冬人の前で言うんだよ。 「龍介、今それ言うかよ」 「アァ? 不謹慎とか、そういう意味でか? それとも、今だとなんかマズイ理由でもあんのかよ?」  龍介が微かに苛立ったのが分かった。  ……だが、今日は初めて冬人と休みが合ったんだ。龍介には悪いが、今日は正直、先約だった冬人を優先したい。  だけど、珍しく。……も、ないが。 「漫画の資料用に、最近この近所にできたっつゥ……喫茶店? に行きてェんだよ。だから、礼として付き合え」  龍介は、引き下がらなかった。

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