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 しかし、冬人に惚れ直している場合ではない。  俺は冬人が用意してくれた缶ビールのプルタブを引きながら、真剣な眼差しを冬人へ送る。 「いいか、冬人。お前さんは自覚をした方がいい。……よく考えてみろ。お前さんは、キレイだ。美人だ。正直、チャイナドレスを着てスリットから覗く太腿で俺を誘惑してほしいくらいだ。顔も体も……どこもかしこも! お前さんはキレイなんだよ! だから、頼む! 自分の魅力を自覚してくれ!」 「あなたは自分が『酔っている』と自覚をするべきだ」 「そんな冬人がフリフリのドレスを着て誰かの姫になるなんて……っ! 俺と冬樹はお前さんをそんな男に育てた覚えはないぞッ!」 「育てられた覚えもなければ、そう育った覚えもない」 「──冬人! 俺だけのお姫様になってくれ!」 「──分かった。水を用意しよう」  そう言い、冬人は立ち上がってしまった。  ……なぜだ? 俺の本気が一パーセントどころか一ミリも伝わっていない気がする。  冬人は俺の言っていることを『妄言』とか『酔っ払いの戯言』として受け取ったのだろう。落ち着いた様子で蛇口から水を出し、コップに注いでいる。  まったく、なんて男だ。後ろ姿やその姿勢すらもがキレイだとなぜ気付かない?  俺はスッと立ち上がり、キッチンに立つ冬人へ近付いた。  するとどうやら冬人は、すぐに俺の接近に気付いたらしい。 「平兵衛。あなたはもう、休んだ方がいい」  そう言いながら、すぐさま俺に水の入ったコップを渡してきたのだから。  ……完全に、扱いが酔っ払いだ。俺は不服そうな顔をしながら、コップを受け取った。酔っ払いではないが、せっかく冬人が用意してくれたのなら、無下にはしたくない。  俺はコップに入った水を一気に呷り、ドヤ顔なんぞを向けてみる。 「いい飲みっぷりだな」  冬人はそう言い、小さくはにかんだ。……くっ、可愛い。これだから無自覚な奴はダメなんだぞ。 「いいか、冬人。お前さんは自覚をした方がいい」 「またその話か。私はあなたに育てられた覚えは──」 「──お前さんは美人な上に、可愛いんだ」  そう言うや否や、俺は……。 「──っ?」  ──細い体を、許可も取らずに抱き上げた。  突然床から足が離れた冬人は、普段のクールな瞳を丸くしてしまう。まるで硬直したように、静止しているのだ。  やがて状況を理解したのか、冬人は本心からの呟きをこぼす。 「……はっ?」  珍しく、冬人が大きく表情を変えている。『驚いています』と顔に書いてあるようだ。  ……いつもの素っ気ない表情も堪らないが、こういうふうに驚く冬人も可愛いな。 「なんだよ冬人、その手は?」 「『なんだ』と問われても。むしろ、突然抱き上げられた場合の手はどうするのが正解なのかを知らない」 「俺に回せばいいだろ! ギュッとな!」 「なぜ?」  冬人は状況を理解していても、どうしてこの状況に陥ったのかが理解できていないらしい。胸の前でただ、手をピタリと止めているのだから。  行き場のない手すらもキレイなのだから、やはり冬人はもう少し自分の魅力を自覚するべきだと、俺は思うがね。

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