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第2話

◆  理一が、薄暗い階段で座り込んでいると、後ろから足音がした。  振り向くと、そこには学園の生徒会長である、花島 一総(はなしま かずさ)が立っていた。  二人は見つめあった後、一総が口を開いた。 「ああ、とうとう一色に振られたらしいな。どうだ、俺に慰められるつもりはないか?勿論性的にな。」  ニヤリとフェロモン全開で笑いかける一総に「別に振られた訳じゃないっすよ。」と理一は答える。  元々、一総は事あるごとに、理一に「俺に抱かれてみる気は無いか?」と誘いをかけていたので、これは言わば社交辞令のようなものと理一は解釈している。 そもそも、一総は夜伽で政財界に根を張り力を伸ばしてきた一族、花島家の人間だ。その性技の虜になり、一総の信奉者となったものがこの学園にも何人もいる。 「一色に恋人が出来たんだ、事実上振られたのと同義だろう?まあ、そもそもお前は一色を自分に惚れさせようって行動が全くなかったんだからこういう結果になるのも当然だろうがな。」 「で? それが? お優しい先輩は俺の事慰めてくれるって言うんですか?」  いつもであるのならば、一総の冗談じみた挑発に理一は、適当にあしらうか、知るか馬鹿等と言い返すのだが、今日は違った。  理一は自分自身でも何言ってるんだ?と疑問に思うが、自分の発言を思い返して、ああ、それも一つかと考える。  男に抱かれる、普段であればその屈辱的状況に自分が堪えられるとは思えないが、目の前の男を上から下まで眺めるが、別に嫌悪感もないし、自分が組み敷かれたところを想像しても別に何とも思わない。  ついに、自分の頭がイカレタか?ということが理一の頭をよぎったがすぐにそれを打ち消す。  理一の中にはまだ暴力的な思考が渦巻いており、それを理性で何とか抑えながら、もう一度、一総を見やる。  一総はというと、鳩が豆鉄砲を食らったようにぽかーんとした表情をしていた。 イケメンといううのは、こんな表情でもイケメンかと場違いな感想を理一が持っている間に、一総の表情は、不敵な笑みに変わった。 「何?ついに俺に抱かれる気になったか?」  ニヤニヤとそれでいて下衆にならない笑みを浮かべながら一総は言う。  理一は逡巡した後、覚悟を決め、一総の瞳を見つめた。 「お試しとかって可能っすか?」  別に、一総は理一に好きだとも、付き合ってくれとも一度たりとも言っていない。  言わば、お誘いはセフレにならないか?と言うことなので、お試しと言うことは当てはまらないかな?と理一は思ったが、とりあえず、自分の中のこの渦巻いているものがSexによって発散できるかもしれない。そう思い質問する。駄目ならば、わざわざ目の前の人物といかがわしい事をする必要も皆無なのでお試しが欲しいという打算からそう言った。 「いいけど。」  一総は自らの黒髪をかき上げながら、妖艶に笑った。 ◆  理一は、この衝動を紛らわすのに、自分が誰かを抱くのでは駄目だという事を知っていた。この衝動がわき上がっているときに、誰かを抱いてしまえば、その果てなき欲望で、相手の人間を壊してしまう。  別のもので発散するというのも、最終的には無理がある。一人で体を動かすのにも限界があるし、他の人間とというのでは、暴力的衝動の前に、目の前の人間がだれであろうと肉塊にしてしまう。  理一は大抵の場合、一人で処理をするか、徹底的に走り込む等自分を痛めつける行為で、衝動から逃げようとしていたが今回ばかりは無理だと本能が言っている。  もっとも、一人で処理をするにも、頭の中の妄想が嫌が応にも凌辱物になってしまい、衝動がさらに膨れ上がるという悪循環だ。  そのため、理一はここのところ、そういった行為を忌避するようになっていた。  だが、実家に有った一族の過去の記録に誰かに抱かれることで、そう言った欲求を発散させていたという記録は無かった。  勿論、男としてのプライドが試そうという気を起させなかったということだと思う。 でも、もしかしたらという気持ちに理一はなった。  これは、チャンスではないか?  目の前の男は夜伽の家系の男で、その辺の人間より、きっとセックスも上手いだろう。  下手に痛いだけの行為をされる可能性も少ない。  その男が、冗談なのかもしれないが、俺の事を誘っているんだ。  利用してやればいいじゃないか……。  そもそも、平均よりガタイがでかく、筋肉質の自分を抱きたいなんて酔狂な人間そうそういないだろう。  それに、何故かはわからないが、こいつならと言う気持ちが理一の中に芽生えていた。  お試しに対して是が返され、理一はふらふらと立ち上がった。 ◆  立ち上がった理一は目線をねじ切ってしまった、階段の手すりに移す。  一総もそちらを見ていた。 「あー、悪い壊しちまった。」  頭をかきながら言う理一に一総は、「まあいい」と言いながら携帯電話を取り出しいずこかに連絡を取った。  何でもない調子で「後始末の手配は済んだから行くぞ。」と先にすたすたと歩き出した。  理一は慌てて後を追いかけた。 「俺の部屋でいいか?」  そう、一総が聞くので、理一は少し悩んだ後首を振って「オレの部屋にしてくれ。」と言った。  異能者の多く通うこの学園は、基本的に一人一部屋で寮部屋が割り当てられている。  他者との同室が難しかったり危険だったりする異能者が多く存在するためである。 そのため、どちらの部屋で事に及んでも大差はないはずで、一総は不思議そうに理一を見る。  理一は階段の手すりを指さしながら 「あれ、見たろ?俺の部屋、特注製の内装と家具なんだ。何かあっても壊れないんで安心だろ?」  と言った。 「別に俺はどっちでもいいがな。暴れないように抱くくらい俺なら簡単だぞ。」  ニヤリと笑いながら言われたが、結局、理一の部屋に行く事を一総は了承した。  薄暗がりの中、二人は無言で理一の部屋へ向かった。

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