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第11話

 本日分の授業も終わり理一が自分の携帯電話を確認すると父からのメールが入っていた。  理一の体を気遣うその内容に感謝する。  あの人は本来自分の父である前に、木戸家の当主であらねばならない立場だ。  それなのにもかかわらず、自分がこの年になるまで、ずっと理一が理一として生きていく事を優先してくれている。  だからこそ、報いたいと思う。  携帯をしまって理一が鞄をもって寮に帰ろうとしていると、クラスメイトに声をかけられた。 「りーち、これで帰るのか?」 「あー、そのつもりだけど?」 「悪いんだけどさ、図書館の本の整理手伝ってくれね?」 「ああうん、いいけど。」 「マジで!!サンキュー。」  今日はそのまま帰るつもりだったが仕方がない。  こうやって頼まれた事は大体OKする所為か理一はクラスメイトや教師はては先輩・後輩まで何かを頼まれる事が多い。  本人の性格という意味ではどちらかというと面倒臭がり屋ではあるのだが、幼少の時の出来事がきっかけで周りの人間に対してつい下手に出てしまう。  クラスメイトに気が付かれないようこっそりと溜息をついて、本の整理を始めた。  本の整理が終わったころには日は沈みかけており薄暗くなっていた。  寮まで数人で取りとめない事を話しながら理一達は歩いた。  そんな“普通”の日常が理一にとってはとても大切だった。  寮の入り口で友人達と別れた。  玄関を入ってすぐ右手にある寮監室に行く。 「済みませーん。」  理一が声をかけると一人の男がのろのろと出てきた。  無精ひげにぼさぼさの髪が目立つその男はこの学園の寮監だ。 「外泊届出したいので用紙ください。」 「ああ、ほらよ。」  理一の学園は異能と呼ばれる超能力のような能力を持ったものが多いため、たとえ休日であっても学園外に出る場合には手続きが必要だ。  なれた手つきで理一は外泊届を書き込んで寮監に渡した。  寮監はざっと目を通し「また実家か?最近多いなあ。 なんだ?ホームシックか?」からかうように言われたのを理一は曖昧にごまかした。  そこに、トントンとドアをノックする音が聞こえた。 「おー、入って良いぞー。」  寮監が返事をすると、ドアが開いて一総が中に入ってきた。 「今月の夜間見周りの当番表が出来たので持ってきました。」 「あー、悪いな。そこ置いといてくれ。」  どうやら一総は生徒会の業務として寮監室にきたらしい。  一総は理一の外泊届をチラリと見ると 「あー、今週末、木戸は学園に居ないのか、一晩のお相手頼もうと思ったんだけどな。」  と言った。  理一が何か言う前に寮監が口を開いた。 「なに?お前木戸にまで粉かけようとしているのか?とうとうハーレムでも作る気になったのか?」  と花島に話しかけた。  それは理一の事をひどく馬鹿にしたような話し方だった。 「いや、そういうんじゃないですよ。もし、ハーレムがご所望なら一度花島の本家に来ていただければと思いますが。」 「いや、ご遠慮願いたい。」  一総は普段の通りのように見えたが言葉に険があるのは理一の勘違いでは無いのだろう。 何か、こそばゆいような、いたたまれない気持ちになって理一は「それじゃあ、俺行きます。」と言って寮監室を出た。  その後を追うように一総も退室をした。  一総が理一に追いついたのはエレベーターの前だった。  丁度夕食時と言うのもあり、エレベーター前に人影は無い。 「本当に残念だな。お誘いかけようと思ってたから。」 「それ、本気なんだか冗談なんだかわかんないっす。」 「本気に決まっているだろ?」  そう言って何人に声をかけているのだろうか?理一は一総の直接的な誘いに素朴な疑問がわく。 「俺にまで粉かけなくてもいいっすよ。」  別に気にしていた訳では無かったのだが先ほどの寮監のセリフそのままになってしまい厭味ったらしい。 「別に、仕事以外にそこら中に手は付けていない。で、今週末は駄目なのはわかったが、いつなら良いんだ?」  物凄い自信だ、断られる前提は無いのか。だけど、これは渡りに船なのかも知れないと理一は考えた。 「……物凄く痛い思いをした後、セックスをすれば痛かった記憶って吹っ飛ぶっすか?」 「何について言っているのか抽象的で分からないが、嫌な思いを性交で忘れるのは割とベターなんじゃないか?」 「そうっすか……。 忘れさせてくれるなら、良いっすよ。」 「は!?」  自分から言い出したのにも関わらず一総は理一が誘いに乗ってきてびっくりしたようだ。 「先輩が嫌ならやめるっすけど、多分来週半ばには帰ってこれるのでその時でも良いすか?」 「嫌な訳無いだろ? こっちから誘ってるんだから。」 「じゃあ、戻ってくる日にメールするんでアドレス教えてもらっていいっすか?」  二人はメールアドレスを交換した。 「まあ、メールしないで直接俺の部屋へ来てもらっても構わないがな。」  いつも通り一総は妖艶に笑った。

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