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第12話

 理一は自宅であり御仁の一族の本家でもある木戸家の門の前に立っていた。  門をくぐり中に入っていく。  そこには使用人がおり「ただいま帰りました。」と理一が言うと、軽く会釈をされた。  相変わらずの対応に苦笑を洩らす。  木戸家にとって強さこそがすべてだ。それは使用人を含め全ての人間が共有している価値観だ。  その中で本家の長男でありながら、青もしくは緑の力しか発現していないと言われおり、木戸家として行っている仕事にも一切参加していない理一は使用人からも軽視されている有様だ。 「父……、木戸家当主と面会の予定ですが、今どこにいるか分かりますか?」  理一が話しかけると、訝しんだ表情を見せた後、溜息をつかれた。  理一はただ、じっとそれを見ていた。 「ご当主でしたら、離れの道場に。」  使用人はそれだけ返すとそそくさとその場を立ち去った。  道場で父は待っていてくれているのか。  先に荷物を置いてこようかと一瞬考えたが、どうせ自室で過ごす時間等無いのだと思い直し、そのまま庭を突っ切って離れに向かった。 ◆  道場の玄関を上がり扉の前に正座をする。 「理一です。ただいま帰りました。」  そう声をかけ扉を引く。  畳が一面にひかれた、柔道場のような部屋の奥に理一の父は座っていた。 「お帰り、理一。」  父は薄く笑顔を浮かべた。  木戸家当主として振舞っている時には絶対に見せないその表情にこちらも笑みが浮かんだ。 「父さん、ただいま。」  理一が年相応の表情と声で言った。 「体は大丈夫か?」 「ここのところずっと落ち着いていたよ。」 「雷也からの報告と違うようだが?」  ああ、雷也から連絡がいっているのかと理一は困ったように笑った。 「ライにはきちんと説明したんだけどな。失恋した話しなんて普通の高校生は父さんにしないよ。」 「ずいぶん追いつめられている様だと雷也は言っていたから心配していたんだぞ。」 「まあ、追いつめられてたんでしょうね。だけど、彼に危害は加えてませんよ?」  理一は言った。まるで危害を加えることが普通である事のように。  純の事を思い返すとまだくすぶった想いが体を渦巻いている事が分かる。  確かに好きだったのだ。  だが、純の幸せなそうな顔をみて失恋を突き付けられ、ああこの恋は終わったのかと少しずつ気持ちの整理が付きつつある。  それが誰のおかげかなんて考えたくもないが。 「大丈夫です。」  父の目を見て理一は言った。  それが彼にとっては奇跡に等しい事だという事を理一も父も良く分かっていた。  御仁は能力によって黒、金、銀、青、緑に瞳の色が変化するという特性を持っているとされている。  これは異能の中では常識とされている。  ただ、これには一つ間違いがある。間違いというより、あまりに数が少ないためあえて言う必要がない色があるのだ。  その色は赤。  初代御仁である九十九(つくも)の色を受け継ぐ先祖返り達。  おおよそ100年に一度生まれるその子供は初代と同じ九十九と呼ばれる。  力は他の御仁の追随を許さない上に、その性質は極めて凶暴。  内なる破壊衝動に暴虐の限りを尽くした記録が木戸家にはおびただしい量で残っている。  理一はその九十九だった。  だがその事実は木戸家当主である理一の父とごく一部の者しか知らない。  力が強すぎるため木戸家の仕事を請け負おうにも無駄に周りに被害を与えてしまう可能性が高いのだ。  破壊衝動が何を引き金に手を付けられなくなるか分からない。  だから、今までの九十九は腫れものを扱う様に隔離され、玩具を与えられてきたのだ。  本来であれば、学校へ通うなんてもっての外であるが、理一の懇願に木戸家当主が折れる形で雷也の監視とサポートを条件に高校卒業までという条件の元、理一は現在も高校に通っている。  父と雷也には感謝してもしきれない。理一はそう思っていた。 「今日呼んだのは他でも無い、白崎家の事だ。」  父は静かに本題を切り出した。  理一は諦めたような笑顔を浮かべた。 「学園で聞いたよ。友人の妹が倒れたって。」  理一はニッコリと笑った後「だから帰ってきたんだ。」そう言った。  それを聞いた理一の父は表情を暗くした。 「奥の間、借りるよ。……俺は俺にしかできない事を精一杯やるだけだから。」  理一の言葉に父は何も答える事が出来なかった。

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