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第42話

 理一はもはや息もたえだえといった風情で一総を見上げる。  胸の先端はジンジンと熱をもった様になって視界は涙で滲んでいる。  自分自身でもはしたない思うのに、理一は先を急かしてしまいたくてたまらなかった。  まあ、最初から自分から誘ったようなものだし今更だろう。  そう思ったところで、自分で今考えてしまったことの意味が分からなかった。  今日寝室へ誘ったのは一総だ。理一ではない。  それに初めての時だって……。  そこで、初めての時どうだったかが思い出せない事に理一は気が付く。  快楽で頭が馬鹿になってしまっているのだろうか。 「本当に木戸は効きづらいな。」  目の前の恋人は自分の事を木戸と呼んでいただろうか?グラグラとする違和感に理一は目を細める。  理一を見下ろす一総が眉間に皺を寄せて、それなのに笑っていた。  なんだか泣きそうな顔だと理一は思った。  その、泣きそうな笑い顔を見ていると湧き上がってしまう感情は何なのだろうか。  一総の事を恋人として好きで、その感情は胸中に確かにある気がするのに、それよりももっとずっと締め付けられる様なそんな感情が湧いてきて理一自身戸惑っている。  何故目の前の男がそんな表情をするのかが分からず思わず手を伸ばして一総の顔の輪郭を確認するように撫でた。  こんなことをするのは初めてだった。  いや、初めてでは……。  自分の思考が、記憶が定まらない。  何だこれはと思った瞬間、理一の視界がぐにゃりと歪む。 「木戸以外の学園にいる人間は皆新しい関係に違和感すら感じていないのにな。」  理一の頭をそっと撫でる手は優し気だ。  それに縋りたくなってしまう気持ちと、それよりも先程の表情の意味と自分の感情を知りたい気持ちが理一の胸の中でせめぎ合う。 「皆に慕われて、周りの人間と上手くやれて、暴力的な感情とは無縁で、大事な人と幸せに暮らす。 木戸の願いはそれなんだろう?」  視界はブレてしまっていて何も判別できない。  一総の表情が先程と同じ泣きそうな表情なのか、それとも笑っているのかさえも分からなかった。 「体を投げうってまで得たかったのは、今みたいな生活だろう?」  一総の声は理一に言い聞かせている様でいて、縋っている様にも聞こえた。

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