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第30話《Ⅳ章》訪問者は突然に⑦
『噂だけど王子様は会長に脅されてるって』
それは旧寮の部屋を片付けないから会長に注意されているのを、皆が知らないだけで。
『こないだも二人が揉めてるのを見たっていう生徒がいるし』
先輩は会長が好きで、会長は先輩が好きなんじゃなかったのか。
『とにかく姫崎も会長には関わるなよ』
「えっ、なんで」
『なんでも!あの人に関わると厄介だから』
会長は怖い人には見えなかった。
正義感が強くて、堂々としていて……問題を起こすような人じゃない。
「あ、おい。そっちは逆」
「いいんだ、こっちで」
部屋と真逆の方向に駆け出す。
(旧寮に行こう)
先輩の部屋。
そこに先輩がいる。
先輩に会って確かめよう。
話はそこからだ。
ハァハァハァハァッ
運動部じゃない自分を恨む。
(俺ってこんなに体力なかったか)
膝がガクガクする。息も絶え絶えに階段を駆け下りる。
見えた。
旧寮。
明かりが灯ってる。
きっと、あそこが先輩の部屋だ。
もうすぐ……
もうすぐ、先輩に……
部屋の明かりが見えた安心と、これからの不安。そして走り続けた疲労でスピードが緩んだ刹那。
ポンッ
背後から肩を掴まれた。
「なにやっとんねん」
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