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第78話《ⅩⅡ章》その矛先は?①
「先輩……」
恐る恐る口を開いた。
旧寮を出てから……うぅん、部屋を出てからずっとだ。一言も喋らない。ぎゅっと手を握ったまま。
お互い無言のままで。
「あのっ」
静寂の重さに耐えられなくなったのは、俺の方。
聞きたい事は山程ある。
問題は何もほとんど解決してない。
どうして先輩はスーツを着ているの?……とか。
先輩と同じ顔したあの人は誰?……もしかして本当にお狐様?……とか。
何も聞けていない。
でも、そんな事はどうでもよくって。
(そんな事よりも!)
先輩と両想いになったのに。
どうして、こんなにも空気が重いのだろう。
(もしかして、また俺の勘違いで、先輩は俺の事なんか何とも思ってないのかも……)
サァァーと血の気が引いていく。
冷たい汗が背中を伝った。
俺の手を握る先輩の体温が遠くに感じる。
「先輩!」
呼んだのは衝動だ。
居ても立っても居られなくなって。
でも次の言葉が見つからない。
ひたり、と。足が止まった。
けれどやっぱり、先輩は無言のままで。
沈黙が鼓動を締めつける。
キリキリ、キリキリ、心臓が痛む。
「あのっ」
耐えられなくなったのは俺の方。
でも、何を言えばいいんだろう。
「会長達を置いてきてしまったけど、いいんでしょうか」
「………………なんで」
小さく掠れた声はよく聞き取れなかった。
だけど、俺を安心させてくれる声音でない事は確かだ。
ジクジク、呼吸が痛む。
「俺、何かしましたか?気に障る事したなら……」
「なんで、あいつの心配なの?」
「えっ」
『あいつ』って星野会長のこと?
「えっと、だって。会長と先輩はバレー部のセッターとスパイカーで相棒だし。親友だし」
「否定はしないけど。それは今、関係ない」
「そんな言い方しなくても」
「俺は怒ってるんだよ」
「えっ?会長、何かしましたか?」
俺を拉致しようとしたのは黒服さんの暴走で。会長は俺を助けてくれた。
先輩も分かってる筈だ。
「違う!」
えっ?じゃあ、先輩は誰に怒ってるの?
「俺は姫に怒ってるんだよ」
エエエーッ!なんで、俺ェェェー??
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