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第9話
自分はそれほど頭が良くない。
直ぐに頭に血が上るし、父親の意図もよく分からない。
なので、どうせ考えても仕方がないと諦めてしまう。
それがよくないことだと分かっているのに、考えたくなかった。
それよりも、百目鬼のことばかり頭の中で思い返していた。
あいつは強かった。強かったのに態と負けた。
それが許せなかったのだということは自分でも理解している。
だけど、ある程度仕合いを早めに切り上げてしまうことは自分にもあるし、同じ流派の誰かにそうされることもあった。けれど、こんなにもうじうじとその時のことを考えていることは初めてだった。
何故、答えは出ないまま眠りについた。
そんなに一つのことを何度も考えるのは初めてだった。
考えても、考えても答えは出なかった。
* * *
翌朝五時に目が覚める。
習慣というのは恐ろしい。今日は道場に入れないのにいつも通りの時間に目が覚める。
仕方がないので走り込みを二倍にしようと、ランニングシューズを履いて家を出た。
鍛錬は禁止されているけれど、体を動かすことは禁止されていない。
朝方の道路は人もまばらだ。
時々犬の散歩の人とすれ違う位だ。
もう少し早い時間だとトラックや新聞配達とすれ違うけれど、特に川べりの道路にはいつもあまり人がいなかった。
その道路を走りこむのが、もう何年も続く日課だった。
比較的自然が多いので、鳥が飛んでいたりするのを見ながら走るのも好きだった。
昨日のことがあったとはいえ、別に体調が悪い訳ではない。
体を動かすこと自体好きなので、少しだけ気分が上がる。
罰ゲームに付き合わされただけなのだから、忘れてしまえばいい。
そんな気持ちになり始めていた。
いつもの道をいつもの通り走っていて、昨日までと何も変わりが無いのだ。
それであれば、何も無かったのと一緒だ。
違うことといえば、道場に入れないのでもう少し走り込みをしなければならない点だけだった。
せっかくだからと土手を下って河川敷出る。
中学のとき少しだけ走っていたことはあったけれど、今は使っていないルートだ。
折角だから、少し遠回りをして汗を流してもいいだろう。
だから、そこであいつを見てしまうとは思わなかったのだ。
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