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第14話

「そう見えるならそうなんだろうさ。 してみるか?」 いくら腹が立ったからといって、これは無い。 冷静になればそう思えるのに、そのときの自分はそんなバカみたいな提案が仕方のないことだと真剣に思っていた。 瞬きすらしない百目鬼に、顔を近づける。 鼻先が触れるか触れないか、息の当たる距離になってようやく我に返った。 「――なんて」 と言って顔を遠ざけようとする。 その瞬間まで、多分ずっと百目鬼の言っていることすべてが冗談か何かだと思っていた部分はあった。 賭けの対象じゃないとしても、何かたわいもないことに俺を巻き込んだ、そういう気持ちがあったからそうやって煽ってしまったのかもしれない。 嘘はついてないと言っていた筈の男を侮っていたのかもしれない。 だから、こんなバカな行動に出ることができた。 けれど、それは間違いだったのかもしれない。 百目鬼はおもむろに俺の後頭部を押さえると、唇と唇が触れる。 人生でキスをするのが今日初めてだった訳じゃない。 だけど、別に付き合ってもいない人間とキスをした訳じゃなかったし、その相手は男でも無かった。 ただ、唇と唇が触れ合うだけのキスだった。 百目鬼の顔が赤いのが分かる。 息づかいも先ほどまでよりも荒い。 「……もしかして、お前本当に俺のことが好きなのか?」 ここにきてようやく理解できた事実を思わず口にしてしまう。 百目鬼は何も答えない。 だけど、すでに割と赤い顔が見る見るうちに真っ赤になっていく。 犯したいだのなんだの言っていたときは当たり前のような顔をしていた男が、何故かこんなことで真っ赤になっている。 それなら最初から赤くなっていて欲しい。 なんだかこちらまでつられてじわじわと照れ臭いような気分になってしまう。 だから、なんでキスしてしまったのかという一番重要な部分が頭からすっぽり抜け落ちてしまっていた。 少なくとも、ものすごく落ち込むとか嫌な気持ちになることは無かったから抜け落ちてしまったのだと思う。 「す、す、す……。」 百目鬼が繰り返し同じことを呟くように繰り返している。 「もう一度今の言葉を言いなおしてくれ!今日のオカズにするからっ!!」 結局百目鬼の口をついて出たのはそれで、ああ、こいつはただの馬鹿なのかもしれない。そう強く思った。 それにしてもオカズって、もしかして俺はいかがわしい妄想の対象にされているということだろうか。

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