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第26話
うちの柔道部は強い。
そう言えば以前誰かに聞いた。
鮮やかに決まる大内刈りに目を見張る。
ああ、百目鬼は凄い。少なくともこの前、最後の一瞬だけ手を抜いた訳ではないのかもしれないと思ってしまった。
その位技が洗練されている。
自分の事でないから逆によく分かる。
百目鬼はきちんと強い。
危なげなく、勝ち進んでいく姿を眺めながらそんな風に思う。
それは百目鬼自身きちんと分かっているだろう。
時折、百目鬼と目があう。
勝って挨拶をした直後、百目鬼が確認するように、こちらに視線をを送っていることに気づかないはずがない。
普段する表情とまるで違う、鋭い視線なのだ。
気が付かない方がどうかしている。
それが昨日言った俺の言葉のせいなのか、わざと負けたことへの何らかの感情なのか、それとも別の何かなのかは知らない。
今知ってどうにかなるものだとも思えない。
試合の合間に声をかけに行くつもりにもならなかった。
彼の集中力を少しでもそがない方がいいという気持ちもあった。
県大会とはいえ、その日百目鬼は勝ち続けた。
優勝が決まった瞬間、百目鬼はしばらく呆然としたように対戦相手を眺めて、それから俺を三秒ほどじっと見ていた。
◆
「優勝おめでとう。」
選手控室から出てきた百目鬼にそういう。
そのまま帰ってしまおうかと思ったけれど、それも味気ないかと百目鬼を待っていた。
ニヤニヤと周りの人間に笑われている気がするけれど、特に冷やかされたりはしない。
百目鬼は一人、驚いた様にこちらを見ている。
昨日ギクシャクしてしまった所為だろうか。露骨に目をそらされる。
少なくとも優勝して嬉しい人間の表情ではない。
百目鬼の考えていることは分からない。
何から何までまるで分からない。
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